膵癌は膵導管細胞を起源とするがん腫であり,近年全世界的に増加傾向を示している。固形がんの中で最も予後不良(5年生存率7%)である。早期発見が難しく,診断時には既に遠隔転移していることが多い。しかし,近年の集学的治療の進歩により遠隔成績は徐々に改善傾向を示している。
切除するにしても化学療法を行うにしても,組織学的診断が強く求められる。膵液細胞診よりは,超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUSFNA)のほうが,診断率が高い。切除が唯一の長期生存の可能性のある治療法なので,まず切除可能性分類に照合し,切除の可否を検討する。遠隔転移の有無にはPET検査,腹膜播種の検索には審査腹腔鏡を実施する。
切除可能性分類(切除可能,切除可能境界,切除不能)に照らし合わせ,治療方針を決定する。「切除可能」に対して,従来は切除先行としていたが,「膵癌診療ガイドライン」の改訂に合わせて2019年8月以降は術前化学療法を勧めている。しかし,高齢者やT1膵癌については症例ごとに検討している。「切除可能境界」には,術前化学放射線療法を強く勧めている。「切除不能」に対しては,6カ月以上の集学的治療によってpartial responseを示すか,stable diseaseを維持できている場合に限り,切除術を勧めている。このような初診時切除不能症例のconversion手術は,門脈・動脈の合併切除再建を伴うことも多く,在院死亡率が高い傾向があるため,患者と家族に十分説明してから実施している。なお,当科では洗浄細胞診陽性,大動脈周囲リンパ節陽性症例は「切除不能」として取り扱っている。また,膵癌に対する膵頭十二指腸切除術は開腹で行っているが,体尾部切除術(血管合併切除が必要ない場合)は腹腔鏡下切除を行っている。
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