症例は21歳男性、大学駅伝競走部の選手である。走行中に右足に疼痛を自覚したため、当クリニックを受診した。
この症例は、箱根駅伝で6区を走行した選手である(選手および監督の了承を得て本稿を執筆している)。彼はスタートして早々右足に違和感を自覚し、下り坂に入ってすぐに痛みとなり、その痛みをこらえながら急勾配の険しい山道を1人で駆け下り続けた。途中2度ほど右足にバキッという衝撃と激痛を自覚したが、それでもなお走り続け、決死の思いで20.8kmを走り抜いて次のランナーに襷をつないだ。
単純X線写真は、その後に撮影したものである。
箱根駅伝では、選手の後ろを監督車が伴走している。監督はレースの状況を選手に伝え、叱咤激励するだけでなく、選手の故障など異常を察知した場合には、棄権という判断を下すこともある。しかし、6区の細く険しい急勾配の下り坂(標高差840m)での監督車の伴走は危険なため、6区における監督車の伴走は最後の3kmに限られている。そのため、誰も彼の異変に気づくことができなかった。後から監督に話をうかがうと、「6区以外の区間で起きたのであれば、選手の異変に気づき、棄権させていたと思います」とのことであった。
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