アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)を実現することが「在宅医療の倫理」の中核である。在宅医療ではACPという用語が登場する前からそれらしきものを行ってきた。本人の意思を傾聴し,家族の思いを考え生活の支援をしながら医療対応を行ってきた。また,ACPの基本にインフォームドコンセント(informed consent:IC)がある。ICも1980年代に登場した用語であるが,その基礎には自己決定権・自律尊重の原則があり,在宅医療はICを基本としたものであり,在宅医療におけるACPの基本的なルールがある。さらに,倫理について考えるとき,臨床倫理問題を考えることが大切である。病院だけでなく,施設・在宅,その連携の中(地域包括ケアシステム)で起こることは当然であり,在宅医が関わって行う基本的な考え方(「気づき」「4原則」「4分割法」)の中に倫理的発想が組み込まれなければならない。
医学的な対象としての患者像から,主体性のある社会的存在としての患者像に,そして生活を基盤とした患者像へと変容するためには在宅医療におけるACP(人生の最終段階の医療・ケアについて,本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス)は,患者の意思決定支援と密接に関連し,このことは自己決定権や倫理の原則である「患者の自律の尊重」と関係する。
「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」1)からわかるように,自分自身に関わる自由な決定を行うための自己決定の権利を有することを前提として,患者は自分自身の決定を行う上で必要とされる情報を得る権利を有する。つまり,医療者の視点では,ICをすべき(法的には説明義務となる)ということになる。この宣言の中で,自己決定の権利について以下のように述べられている。
a. 患者は,自分自身に関わる自由な決定を行うための自己決定の権利を有する。医師は,患者に対してその決定のもたらす結果を知らせるものとする。
b. 精神的に判断能力のある成人患者は,いかなる診断上の手続きないし治療に対しても,同意を与えるかまたは差し控える権利を有する。患者は自分自身の決定を行う上で必要とされる情報を得る権利を有する。患者は,検査ないし治療の目的,その結果が意味すること,そして同意を差し控えることの意味について明確に理解するべきである。
次に自己決定権を法的に考えると,憲法に基礎を置くと考えられている。法的な価値に序列があるとすると,自己決定権は憲法で保障されており,より高い地位に位置すると考えられる。このような点をふまえて,在宅医療の現場で行われてきたことを法的にも倫理的に整理する必要がある2)。
在宅におけるACPで重要なのは,患者・家族に医療情報が提供され,理解されることである。医学・医療的の決定における情報提供は,通常,在宅医が行わなければならない。情報を提供し,情報を相互に理解し,決めていく過程を共有すること,すなわち共有意思決定(shared decision making)が重要である。その対象には家族,介護士,看護師,あるいは行政なども含まれる。
家族の理解を得ることは本人支援のためには必要であるが,まずは,倫理では「本人の意思」の支援に着目して考えることが必要となる。そのためには,家族に希望を聴くのではなく,家族を通じて,患者の意思やそれを体現する発言・経験等の情報を集めることが必要である。その他,ケアマネジャーを通じて,在宅における患者情報の共有ができれば,より機能を果たすと思われる。
残り1,300文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する