株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

認知症の行動・心理症状(BPSD)[私の治療]

No.5063 (2021年05月08日発行) P.20

大澤 誠 (大井戸診療所理事長・院長)

登録日: 2021-05-05

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • 認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)が重要なのは,そのために,介護者の負担の要因となり,しばしば介護放棄や身体拘束にもつながり,また,本人の怒りや暴力にも結びつき,BPSDがどちらにとっても望まれない症状と言えるからである。

    ▶アセスメントのポイント

    BPSDは,中核症状と明確な境界線を引くことが困難な場合もある。たとえば,人物誤認は単純な見当識障害とも妄想性の障害とも考えることができる。しかし,このような線引きよりも「本人はどうしたいのか,本人が何で困っているのか,ケアする側は何で困っているのか」を推測し,それを解決することが適切な治療やケアに結びつく1)
    なお,BPSDにせん妄は含まれない。せん妄は意識障害の一種であり,認知症にせん妄が伴っている場合,せん妄が軽快するとBPSDも改善することが多い。しかし,現場ではしばしば両者の区別がつきにくいこともある(「意識障害」の稿参照)。

    ▶治療の考え方

    まずは非薬物療法を試みる。その際に背景因子と誘因というとらえ方の整理が役に立つ。

    【背景因子】

    BPSDの背景因子には,介入しづらいものとしやすいものとがある。

    〈介入困難なもの〉

    脳病変そのもので生じるBPSD,たとえば血管性認知症におけるうつやアパシーは前頭葉白質病変と関連がある。また,レビー小体型認知症における幻視のように,それが中核症状であったりもする。さらに,認知症になったことを恥とする傾向の強い地域では,介護負担や本人の心理的ストレスが増え,BPSDの要因となる。そして,本人の歩んできた個人史がその性格,価値観,行動に影響を与え,BPSDを修飾する。

    〈介入が可能なもの〉

    ①薬剤:認知症治療薬が影響することがある。ドネペジルによる興奮や過活動,メマンチンによる過鎮静を経験する。ポリファーマシー,抗コリン作用を持つ薬剤や向精神薬などの投与にも留意する。
    ②身体合併症:変形性関節症,呼吸不全,心不全などによる日常生活活動(ADL)の制限がBPSDの背景となる。
    ③居住環境:温度や騒音などの物理的な環境だけでなく,人的な環境にも留意する。
    ④せん妄。
    ⑤生活障害:認知症による手段的日常生活活動(IADL)やADLの障害が,焦燥感や自信喪失につながる。
    ⑥体調変化:便秘,脱水,発熱,疼痛,などが,易怒性・焦燥などの背景にもなる。
    ⑦ケア技術・関係性:介護者が失敗を指摘したりする態度がBPSDを悪化させる。
    ⑧社会資源:介護保険サービスやインフォーマルな支援の不十分さも影響する。
    ⑨不安・喪失感・心配事:過去と現在のつながりが失われ,また,できないことが増えることなどが,自分が失われていく漠然とした不安感や喪失感を生む。
    これらの要因のどれ(1つとは限らない)がBPSDに結びついているのかを紐解くことでBPSDへの対応が見えてくる。

    【BPSDの誘因】

    多様な背景因子により不安や不満が積もっているところに,ケアする者からのきつい言葉などの誘因(スイッチ)が加わると,顕著なBPSDとなる。アルツハイマー型認知症 (Alzheimer-type dementia)の易怒性では,スイッチがあることが多い。そうした不安・不満などの現れを「予兆」として気づけばBPSDを防いだり,減らしたりすることができると考え,伊東2)はその徴候を見出し,「不同意メッセージ」と名づけた。「服従」「謝罪」「転嫁」「遮断」「憤懣」がそれであり,認知症の人の表情や言動からそれに気づき,ほめる,優しく接する,本人が納得するタイミングややり方を検討するなどの対応でBPSDを回避できるとした。

    残り1,004文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    関連求人情報

    関連物件情報

    もっと見る

    page top