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【一週一話】腸内細菌による制御性T細胞の誘導: 医療への応用の可能性

No.4706 (2014年07月05日発行) P.55

大野博司 (理化学研究所統合生命医科学研究センターグループディレクター)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-28

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  • 制御性T細胞(regulatory T cell)は,転写因子Foxp3を発現することによって分化が誘導されるTリンパ球サブセットであり,異常または過剰な免疫反応を負に制御することにより自己免疫,炎症,アレルギーなどの様々な病的免疫応答を抑制し,免疫寛容・免疫恒常性の維持に必須な役割を担う。腸管には他の組織・臓器と比較して制御性T細胞が多く存在するが,最近の研究によりクロストリジウム目(order Clostridiales)細菌群が大腸の制御性T細胞の誘導に重要であることが示されている。クロストリジウム目細菌群は,我々動物の消化酵素では分解されない,いわゆる難消化性食物繊維を分解利用することが知られている。

    そこで,クロストリジウム目細菌群を定着させた無菌マウスを,難消化性食物繊維を多く含む餌(高繊維餌)あるいは含まない餌(低繊維餌)で飼育したところ,大腸制御性T細胞は高繊維餌を与えた群に比較して,低繊維餌を与えた群では分化誘導されにくかった。このことから,クロストリジウム目細菌群によって難消化性食物繊維が分解された結果,産生される代謝産物が制御性T細胞の分化誘導に重要であることが示唆された。

    そこで,メタボローム解析という低分子量代謝物の網羅的な定量解析手法を用いて,低繊維餌群に比べて高繊維餌群の腸内に多く含まれる化合物を抽出し,その制御性T細胞誘導能を調べたところ,短鎖脂肪酸である酪酸が強い活性を持つことがわかった。

    酪酸はヒストン脱アセチル化酵素阻害作用を持つことが古くから知られているが,この作用によりT細胞にエピゲノム変化をもたらすことが,制御性T細胞の分化誘導の一因であることもわかっている。

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