最近の報告では,酸分泌抑制薬であるproton pump inhibitor(PPI)の長期使用が腸内細菌叢に影響し,Clostridium difficile(CD)感染症が発症しやすい環境になるとされている。potassium-competitive acid blocker(P-CAB)は,PPIよりも強力に胃酸分泌を抑制すると報告されている。このため,P-CABの服用によって腸内細菌叢がどのように変化するかを検討した1)。ヘリコバクターピロリ菌陰性健常者を対象として,PPI群とP-CAB群の2群で腸内細菌叢の解析を行った。P-CAB群ではPPI群に比して,口腔内の常在菌であるActinomyces属やRothia属が顕著に増加していた。また,P-CAB群ではBlautia属やCoprococcus属の著明な減少が認められており,この変化はPPI群で報告されていなかった結果であった。興味深いことに,このBlautia属やCoprococcus属は,CD感染症を抑制する細菌であり,P-CAB内服によってCD感染症が促進される腸内細菌叢の状態となっていることが示唆された。また,P-CAB群でLPS産生に関与する細菌群の著明な増加を示唆する結果も得られていることから,P-CAB投与ではPPI投与よりも腸管炎症が生じやすい腸内細菌叢の環境になっていることが示唆された。
これらの結果から,酸分泌を強力に抑制することで腸内細菌叢は変化し,CD感染症や炎症が惹起されやすい状況になっていることが考えられ,今後の酸分泌抑制薬の投与法および適応については再考する必要があると考えられた。
【文献】
1) Otsuka T, et al:Gut. 2016;66(9):1723-5.
【解説】
西田淳史*1,安藤 朗*2 *1滋賀医科大学消化器内科 *2同教授