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C型肝炎ウイルスの遺伝子構造と抗ウイルス薬の作用機序は?

No.4934 (2018年11月17日発行) P.64

相崎英樹 (国立感染症研究所ウイルス第二部室長)

登録日: 2018-11-15

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(1)C型肝炎ウイルス(HCV)の遺伝子は5’非翻訳領域,構造蛋白(C,E1,E2),非構造蛋白(NS2,NS3,NS4A,NS4B,NS5A,NS5B),3’非翻訳領域からなりますが,非構造蛋白はいかなる役割を果たしていますか。
(2)直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antiviral:DAA)は非構造蛋白にどのように作用しているのでしょうか。

(高知県 F)


【回答】

【DAAのウイルス産生抑制作用は,HCV非構造蛋白の機能を抑制することで得られる】

(1)HCVにおける非構造蛋白の役割

HCVは,レセプターを介して肝細胞に吸着,侵入し,粒子よりウイルスRNAが細胞内に放出され,これがメッセンジャーRNAとして翻訳され,大きな前駆体蛋白が合成されます。この前駆体蛋白は細胞のシグナラーゼとウイルス自身がコードするプロテアーゼによって切断されます。

コア蛋白と2つのエンベロープ蛋白E1,E2からなる構造蛋白はウイルス粒子を形成し,ウイルス粒子に含まれない非構造蛋白(NS2,NS3,NS4A,NS4B,NS5A,NS5B)はウイルス複製を担います。

NS2とNS3はプロテアーゼとして働き,NS2はNS2とNS3間を,NS3はNS4AとともにNS3~NS5B間の前駆体蛋白を切断します。さらに,NS3はインターフェロンシグナルを伝達するIPS-1を切断することで,宿主の自然免疫機構から逃れています。膜貫通蛋白であるNS4Bはウイルス複製複合体形成に関与していると考えられています。リン酸化蛋白のNS5Aも多くの宿主蛋白と相互作用してウイルス複製複合体を構築するとともに,複製複合体を内在させる膜小胞構造の形成,ウイルス粒子の形成にも関与しています。この膜小胞は,内在するウイルスゲノムや複製に関与するNS蛋白をヌクレアーゼやプロテアーゼから守るとともに,宿主の免疫系から逃れる働きもあると考えられています。RNA依存的RNAポリメラーゼ活性を有しているNS5Bはプラス鎖RNAからマイナス鎖RNAを,マイナス鎖を鋳型にプラス鎖を合成してウイルスゲノムを複製します。

(2)非構造蛋白に対するDAAの作用

DAAは前述の非構造蛋白の機能を抑制することにより,ウイルス産生を抑制していると考えられます。すなわち,プロテアーゼの阻害薬はNS3/4Aプロテアーゼの活性中心に共有あるいは非共有結合することにより,ウイルス蛋白の切断を抑制します。

さらに,HCVのプロテアーゼにより抑制されている自然免疫系の回復に寄与している可能性も考えられます。NS5A阻害薬は,NS5Aが二量体を形成し小胞体に付着するところに結合することにより,複製複合体形成を阻害すると考えられていますが,一方,ウイルス粒子形成も阻害している可能性があります。ポリメラーゼ阻害薬には非核酸阻害薬と核酸アナログがあり,非核酸型ポリメラーゼ阻害薬は,ポリメラーゼの活性中心に作用することにより複製を抑制します。

一方,核酸アナログはヌクレオチドの代わりにウイルスのRNA鎖に取り込まれ,RNA鎖の伸長を停止させる「チェーンターミネーター」として働き,ウイルスの増殖を阻止するため,変異の多いHCVにおいて多くの遺伝子型やウイルス株に対応できることが期待されています。

【回答者】

相崎英樹 国立感染症研究所ウイルス第二部室長

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