呼吸困難とは,呼吸時の息苦しさや息切れなど,呼吸時の不快感を示す症状名である。この症状を呈する患者は,低酸素症〔PaO2(動脈血酸素分圧)=60torr未満〕をきたすことが多いが,中には低酸素血症を伴わないこともある。強い苦痛や死への不安・恐怖を伴うこともあるため,症状が緩和できなければ在宅医療の継続が困難となり,入院する必要が生じることもある。診断根拠となる検査が限られている在宅医療という環境の中で,臨床診断と症状緩和を行っていかなければならない。基本的な診療技術やコミュニケーション能力が重要なスキルとなる。
・呼吸不全を疑う症状,所見:呼吸音,湿性ラ音,汽笛音,背部の濁音界(胸水の可能性)
呼吸困難が出現する時期:体動後,夜間,咳嗽,喀痰を伴うか
・心不全・循環器疾患を疑う所見:不整脈,突然出現した胸痛,血圧異常(高血圧,低血圧),頻脈または徐脈,浮腫,無呼吸,チェーン-ストークス呼吸
貧血(眼瞼結膜),過呼吸,不安(パニック),せん妄,スピリチュアルペインなど
身体所見,問診,SpO2測定,胸部X線撮影(可能であれば),血液ガス分析(可能であれば)
・軽度~中等症の細菌性肺炎:抗菌薬投与
・気管支喘息:ステロイドや気管支拡張薬の投与
・胸水貯留時:利尿薬投与,胸水穿刺(症状改善が期待できる場合のみ)
・慢性心不全:利尿薬の投与または増量,あるいはNPPV(非侵襲的陽圧換気)療法導入
・輸液施行時:輸液の減量または中止
・低酸素血症(酸素飽和度90%未満)を伴う場合は適応があれば在宅酸素療法の導入(CO2ナルコーシスに注意)
・肺悪性腫瘍による呼吸不全など原因に根本的なアプローチができないとき:症状緩和を目的とした対処:MST(Morphine Steroid Tranquilizer)療法〔モルヒネまたはヒドロモルフォン+ステロイド+鎮静薬(軽度~高度)〕
・喀痰過多時:喀痰吸引または去痰薬やスコポラミン投与,気流の提供(扇風機や換気),低酸素血症(SpO2 90%未満)を伴うときは在宅酸素療法導入
・低酸素血症を伴わないとき:傾聴を行いながら不安やスピリチュアルペインなどに対応
肺病変のあるケース,あるいは心不全があるケースでは,呼吸困難が出現したときにどのような治療があるか説明する必要がある。特に終末期と考えられるケースでは,持続鎮静についてあらかじめ説明し,呼吸困難の改善が困難な場合,深い持続鎮静の導入について事前に意思決定をしておく必要がある。深い持続鎮静によって,家族とのコミュニケーションができなくなること,食事をとることができなくなること,そのまま死を迎える可能性があることなど,そのデメリットについても説明しておく必要がある。
残り1,509文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する