貧困には「絶対的貧困」と「相対的貧困」がある。絶対的貧困とは発展途上国で見られるような,最低限の暮らしを送るのに必要な食べ物や生活必需品すら買えない層の割合を示したものである。世界銀行によれば,2015年時点で1日の所得が1.90米ドル以下の人々を絶対的貧困とし,世界に7億3600万人いるとされている。
一方,相対的貧困とは等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割って算出)が,全人口の中央値の半分未満であることを指す。日本では年間所得が1人世帯で122万円以下,4人世帯で250万円以下の人々が当てはまるが(2015年時点),その割合を示す相対的貧困率は15.7%である。経済協力開発機構(OECD)加盟国37カ国中7位と先進国の中でも上位である。いまや日本でも貧困は特殊な問題ではない。
貧困と格差の問題は,社会そのものを変えていかないと根本的な「治療」はできないと考える。
「21世紀の資本」1)の著者トマ・ピケティによれば,格差是正に関する提案は2つである。1つは所得税に関する累進課税の復活,第2は,富裕税としての資本税であり資産課税である。ピケティは,資本の不平等な配分が格差社会の原因と考えている2)。富者から貧者に富を移すことで,社会全体としての幸福の度合いを高めようとする思想である。
筆者は愛知県名古屋市昭和区の街医者であり,杉浦医院の院長をしている。同時に,名古屋市内で貧困の最たるものと考えられるホームレスの支援をするNPO法人ささしまサポートセンター(SSC)の理事長をしている。30年前,この団体が法人格を持たない市民団体であった時期から関わりはじめ,現在も週に1度炊き出しを行う他の団体と協力して,炊き出し会場で年間300人以上の医療・生活相談を行っている。支援現場から見えてきた,貧困の状態にある人の命と健康を守るために医療者ができること,なすべきことを述べる。
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