94歳のKさんは毎回、診察室に入るなり「先生、ワシャ死ぬ気がしないよ!」といたずらっぽく笑いながら挨拶される。さすがにこの10年は息子さんに付き添われて来院されるが、それでも手押し車を押しながら歩いて入室されている。今でも自宅周りの散歩は欠かさないとのこと。
Kさんは代々農業をされていたが、32年前に左脳(被殻)出血をきたし、近医に入院治療後、合併した右半身麻痺のためにリハビリ病院に転院された。この病院で約半年間、懸命にリハビリに励まれ、見事、運動麻痺を克服されたのである。リハビリ病院を退院された後、私の病院の外来に通院されるようになったので、私とは31年間の付き合いとなった。
Kさんは私の町では比較的大きな米農家で、一町五反もの田んぼを耕してこられたが、その傍ら、長らく地域の区長なども務められ、いわゆる町の世話役の一人であった。多くの町民や近隣の農家の方々の面倒をみて、皆さんから慕われておられた。
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