膵癌による人口10万人当たりの死亡率をみると,日本におけるがん死亡の5位であり,年々増加傾向を示している。胃癌や肝臓癌の死亡率が減少傾向にあるのとは対照的である。
胃癌は,検診システムや早期診断・早期治療体制の確立が奏功している。さらには胃癌の主な原因がヘリコバクター・ピロリ菌感染であることの発見や除菌治療の普及が後押ししている。肝臓癌は,肝炎ウイルスが肝発がんの主な原因であることが早くから認識され,それに対するフォロー体制や,早期診断・早期治療方法が確立された。さらには主原因であるC型肝炎ウイルス排除治療の急速な進歩が奏功した結果でもある。これに対し膵癌は,発がんリスクの高い人の特徴が不明瞭であるため,有効な早期発見のシステム構築が困難であることや,早期診断のための検査の侵襲性が高いため,何回も繰り返して施行する検診システムとして採用しにくいことなどの理由から,早期診断がきわめて困難であることが,治療成績が不良である主な原因である。
膵癌に対する有効な治療は切除であるが,実際に,日本で膵癌と診断された患者のうち,切除できる時期に診断されているのは30%前後にすぎない。切除したとしても,2年生存率が40%弱,5年生存率は10%以下である。したがって,膵癌診療の改善のためには,現在の医療診断技術を超える工夫が必要である。
膵癌の腫瘍マーカーとしては,CA19-9,CEA,D UPAN-2,エラスターゼ1などがある。これらの膵癌での陽性率はそれぞれ50~70%前後であり,膵癌診断の契機となることもあるが,切除可能な時期での診断の決め手とするには不十分である。
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