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COVID-19に対するPCR検査の感度の科学的根拠は?

No.5074 (2021年07月24日発行) P.45

村上正巳 (日本臨床検査医学会理事長/群馬大学大学院医学系研究科臨床検査医学教授)

登録日: 2021-07-26

最終更新日: 2021-07-20

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検査の感度と特異度についてお尋ねします。たとえば,COVID-19に対するPCR検査の感度は70%であると報じられています。しかし,COVID-19の確定診断がPCR検査でしかつかない現状で,感度70%にどういう科学的根拠があるのでしょうか。偽陰性である30%は他に確定する方法がないはずですがいかがでしょうか。PCR検査を基準にして抗原検査の感度が60%というのは理解できるのですが。(京都府 K)


【回答】

【検査のgold standardは定まっていないため,繰り返しの検査や病歴,画像所見を参考に最終診断する】

感度とは疾患があるときに検査が陽性となる確率で,ご質問にありますようにCOVID-19に対するPCR検査の感度は70%と報じられています。

ご指摘の通り,COVID-19の検査として最も信頼性の高い検査が核酸検査であるRT-PCR検査ですが,その感度を正確に検討するために必要となる,COVID-19と診断するためのgold standardが定まっていません。

PCR検査の感度が70%であるという根拠の1つが2020年2月に発表された中国の温州医科大学のFangらの報告です1)。COVID-19に罹患する環境にあり,症状を有した患者51人に対してRT-PCR検査を行いました。症状が出現してから平均3日の時点で実施された最初のRT-PCR検査では51人中36人(71%)が陽性でした。残りの15人のうち,12人は2回目(1〜2日後),2人は3回目(2〜5日後),1人は4回目(7日後)で陽性となり,最終的に51人全員が陽性となりました。この結果からは,最初のRT-PCR検査の感度が71%となり,偽陰性は29%となります。

明確なgold standardがありませんので,このように繰り返し検体を採取して検査を行ったり,病歴,診察所見,胸部X線やCTの所見を参考にして最終的な診断をすることになります。検査が偽陰性となる原因として,感染後の時期によってウイルスの量が少なかったり,検体の採取が不十分であったり,検体の取り扱いの不備があったりすることなどが挙げられます2)

SARS-CoV-2の検査法別の検出感度は,「RNA抽出(精製)による核酸検査>簡易抽出による核酸検査(ダイレクトPCR)≒抗原検査(定量)>抗原検査(定性)」と考えられており3),採取された検体中にウイルスが一定量存在すれば,RNA抽出(精製)による核酸検査によって100%近く検出できるものと考えます。

北海道大学の豊嶋教授らは,保健所(濃厚接触者)と国内の空港での検疫における無症状者1924人に対して,鼻咽頭ぬぐい液と唾液を用いたRT-PCR検査で調査をしました。Bayesian latent class modelという統計手法を用いて解析したところ,鼻咽頭ぬぐい液と唾液を用いた検査の感度はいずれも約90%,疾患がないときに検査が陰性となる特異度はともに99.9%以上であったとの分析結果を2020年9月に発表しています4)

【文献】

1) Fang Y, et al:Radiology. 2020;296(2):E115-7.

2) 三宅一徳:臨床検査の偽陽性と偽陰性について.
[https://jslm.org/committees/COVID-19/ 20200427.pdf]

3) 新型コロナウイルスに関するアドホック委員会:日本臨床検査医学会誌. 2021;69(2):65-9.

4) Yokota I, et al:Clin Infect Dis. 2020 Sep 25; ciaa1388.

【回答者】

村上正巳 日本臨床検査医学会理事長/群馬大学大学院医学系研究科臨床検査医学教授

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