編著: | 西川 博嘉(国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野 分野長/先端医療開発センター 免疫TR分野 分野長/名古屋大学大学院医学系研究科微生物・免疫学講座分子細胞免疫学 教授) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 240頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2024年03月03日 |
ISBN: | 978-4-7849-0531-7 |
版数: | 初版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
第1章腫瘍免疫学概論
1 10年後の腫瘍免疫学とがん免疫治療はどうなっているか?
第2章がん免疫療法の本態は?―がん免疫治療が標的とする細胞―
1 がん免疫に関わる細胞とがん免疫治療の種類
第3章最新のがん免疫療法と今後の展開
1 免疫チェックポイント阻害薬の基礎
2 免疫関連有害事象(irAE)の臨床像,高リスク因子および発症機序
3 免疫抑制細胞を標的とした治療の可能性
4 細胞療法
5 自然免疫応答からの展開―がん免疫治療における自然免疫の賦活化―
第4章これからのがん免疫療法―がん標的薬は免疫標的薬?―
1 遺伝子異常による免疫系への影響と遺伝子異常をターゲットにした分子標的薬の可能性 ―代謝,ケモカイン―
2 遺伝子異常による免疫系への影響と遺伝子異常をターゲットにした分子標的薬の可能性 ―遺伝子変異に伴うがん特異抗原を標的とした治療―
3 免疫応答を制御する分子標的薬:がん免疫治療の新境地
第5章最適ながん免疫療法のための検査の展開
1 がん免疫プレシジョンメディシンのための検査
第6章がん免疫研究データを臨床医はどう活かすか?
1 肺癌における免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用療法の現状と問題点
2 消化管癌における免疫チェックポイント阻害薬の現状と分子標的薬等との併用療法の展望
免疫チェックポイント分子と呼ばれる免疫応答を負に調節する分子に対する単クローン抗体(免疫チェックポイント阻害薬:抗CTLA-4抗体や抗PD-1/PD-L1抗体など)の臨床導入により, がん免疫治療はがん治療の第四の柱としての地位を確立した。その後も血液悪性腫瘍に対するキメラ抗原受容体導入T(Chimeric antigenreceptor T:CAR‐T)細胞治療などの免疫細胞治療の成功もあり,がん治療分野でのがん免疫治療への期待は大きい。しかし,約10年間の臨床現場での経験からがん免疫治療の長所と短所もわかってきた。がん免疫治療は進行期のがん患者に対しても奏効することがあること,治療効果が認められた患者では長期に効果が持続すること(Kaplan-Meier曲線のtail plateau)などの長所がある一方で,治療効果に個人差があることや免疫関連有害事象と呼ばれる自己免疫反応が起こることなどの短所も明らかになっている。
治療効果の向上をめざしてがん細胞が免疫監視を逃避する仕組みの解明が進み,それらを標的としたこれまでとはまったく異なるアプローチによるがん治療の開発が進んでいる。たとえば,がん組織の微小環境(がん微小環境)での免疫チェックポイント分子以外の免疫抑制機序に焦点を当てた研究は,世界的にも急速な進展をみせ,現在臨床治験が進められているものも多い。また,がん細胞自身が持つ遺伝子変異に由来するシグナルが周囲の免疫応答に直接影響を与えてがん微小環境に免疫抑制機構を構築する,という新たな考え方も提唱され,ゲノム診断により得られた遺伝子異常の情報をがん免疫治療に応用するという取り組みが展開され始めている。このようながん免疫治療が急速に進歩している現状をふまえ,本書では,『「10年後のがん免疫治療がどうなっているのか?」という視点から腫瘍免疫学を考える』という挑戦的な書籍をめざした。本研究領域に意欲的に取り組まれている基礎から臨床までの先生方にご尽力頂き,腫瘍免疫学の新しい息吹の誕生から今後の展開を感じて頂ける書になったと自負している。本書ががん免疫に関する基礎研究から臨床研究を促進するとともに臨床現場でのがん免疫治療の理解につながり,がん免疫研究の発展,がんの治癒をめざした効果的な次世代がん免疫治療の開発・確立につながる基盤となることを願っている。