救命センターで救急医としての最初のキャリアをスタートした私にとって、最初にロールモデルとなった医師は当番に入るといつも「ひとまず連れてきて」と救急車を断らずに受けていた。当時はまだ3次の救命センターといえば重症を救うためにある、という観念が強く、「救命センターは軽症を診るところではない」「救命センターに搬送するということはやれることをすべてやるということ」というような価値観も残っていたときであり、少し異色の存在であった印象が強い。
しかし、しばらくして気づいたのは、その上級医のときだけ収容依頼が明らかに多いことである。地域の消防が当直医をみて依頼の匙加減を変えることの是非は置いておいて、地域からの信頼感をどのように得ているのかは背中を見れば明白であった。また、救急はお願いすることが多い科であると思う。確かに、侵襲的処置を当該科に、時間外の検査を多職種に、待ち時間や辛い処置になることを患者に、お願い事をしてばかりである。別のロールモデルの医師は電柱理論(救急医は電柱にあたっても頭を下げるように)を掲げていたが、優れた救急医は腰が低い。
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