内視鏡診療に30年近く関わってきました。この写真は、私の生涯でのベストショットです。といっても、さして珍しくもない胃癌の写真で、芸術的には凡庸な画像でしょう。ただ、この患者さんから、私は多くのことを学びました。臨床医であれば、誰でも医師人生の中で忘れ難い患者さんと巡り会います。私にとってはこの患者さんがその人でした。
1999年7月のある日、突然病院長から呼び出しがありました。広島の某病院で勤務医をしていた時のことです。「伊藤くん、整形外科の外来に来てくれないか?」。病院長は整形外科医で、50歳代の上品な女性を診察していました。シャウカステンには肘関節のX線写真。病院長は静かな声で「伊藤くん、この人の胃を診てあげてくださいな」。えっ?肘が痛いんですよね?意味がわからず当惑するばかり。翌日の内視鏡検査でこの病変が見つかりました。胃癌の骨転移でした。
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