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ネガティブ・ケイパビリティー[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(370)]

No.5081 (2021年09月11日発行) P.64

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2021-09-08

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本を読んでいると、知らなかったことや、めったに目にしない言葉に連続して出会うことがある。ずいぶんと昔だが、『女か虎か(原題:The Lady,or the Tiger?)』という小説のことを2~3週の間に3回も目にした。しかし、それ以来遭遇したことはない。

「リドルストーリー」と言われる、結末が書かれていない、言ってみれば中途半端な短編小説なのだが、面白い。むしろ、それだけにいつまでも心にひっかかりが残る。

3回連続というのは、さすがにこの小説だけだが、2回というのは時々ある。とはいえ、年に一度あるかないかだ。もちろん単なる偶然であることはわかっている。でも、そういう偶然があるとなんだか嬉しい。

つい最近、そういった偶然が立て続けに2回あった。ひとつはリンドン・ジョンソンの名だ。誰やそれは、と思われる人が多いだろう。ケネディー大統領が暗殺されて副大統領から大統領に就任した、いささか影の薄いアメリカ合衆国第36代大統領である。

もうひとつは「ネガティブ・ケイパビリティー」だ。どれくらい有名な言葉なのだろう。ウィキペディアには「詩人ジョン・キーツが不確実なものや未解決のものを受容する能力を記述した言葉。日本語訳は定まっておらず、『消極的能力』『消極的受容力』『否定的能力』など数多くの訳語が存在する」とある。これだけだと少しわかりにくい。

さらに、キーツの言葉として、「短気に事実や理由を求めることなく、不確かさや、不可解なことや、疑惑ある状態の中に人が留まることができる時に見出されるものである」と説明されている。

おぉ、そのことを言うのか! かねがね、こういう宙ぶらりんな状態に耐える能力が大切だと思っておったのだ。さすがキーツ、ちゃんと言葉を作り出してくれてたんや。しかし、日本語の訳はどれも悪すぎるやろ。

大英帝国が大きく発展できたのは、こういった能力と粗食に耐える能力がパブリックスクールで育まれるからだと何かで読んだことがある。人間というのは、たとえ悪い運命であっても、それが定まってしまえばある程度耐えられる。そうなるかもわからないという状況の方がストレスなのだ。

COVID-19では我々のネガティブ・ケイパビリティーが試されているかのようだ。『女か虎か』とかを読むと、そういった能力を鍛えるためのトレーニングになるかも。

なかののつぶやき
「『女か虎か』はフランク・R・ストックトンという19世紀の終わりに活躍した米国の作家による小説で、王女との恋愛の先に待ち受けているのは、はたして女か虎か、という内容です。【女か虎か】で検索すると日本語訳が読めるので、興味がある人はぜひ読んでみてください。短いのですぐに読めます。どういう結末を想像するかで、性格がわかりそうな気がします」

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