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アカシジア[私の治療]

No.5081 (2021年09月11日発行) P.37

大森まゆ (国立精神・神経医療研究センター病院精神科医長)

登録日: 2021-09-12

最終更新日: 2021-09-08

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  • アカシジアは静座不能症とも言い,「じっとしていられない」といった内的不穏と異常感覚,運動亢進症状を特徴とする。抗精神病薬の副作用として生じるものが典型的であるが,その他の薬剤や,治療薬等の離脱,身体疾患でも生じうる。自覚的な苦痛が強く,適切な対処が必要である。

    ▶診断のポイント

    薬剤の投与開始や増量後に不安・焦燥や多動などが生じた際には,精神症状の悪化や出現の可能性と同時に,アカシジアを念頭に置き,丁寧な問診を行う。

    自覚症状は「落ちつかず,そわそわして,じっとしていられない」という切迫した焦燥感と,「ムズムズ」「ジンジン」「蟻走感」「灼熱感」などと表現される不快な異常感覚であり,貧乏ゆすり,立ち上がって歩き回る,何度も足を組み直す,足をさするなどの運動により不快感が軽減する。

    典型的には抗精神病薬の投与開始や増量後,数時間~2週間以内に発症する(急性アカシジア)。ハロペリドールなどの定型抗精神病薬のみならず,リスペリドンやブロナンセリン,アリピプラゾールなどの非定型抗精神病薬でも生じる。抗うつ薬(イミプラミン,パロキセチン等),消化器病薬(スルピリド,ファモチジン,メトクロプラミド等),抗認知症薬(ドネペジル等),その他一部の降圧薬や抗癌剤なども原因薬剤となりうる。パーキンソン病治療薬や抗コリン薬の減量ないし中止後に生じるもの(離脱性アカシジア),原因薬剤投与から3カ月後以降に生じるもの(遅発性アカシジア)もある。

    妊娠,脳炎後遺症,パーキンソン病,末期腎不全(透析患者)に伴って生じる非薬剤性のアカシジアもあるが稀である。血清鉄の低下や糖尿病は,アカシジアの危険因子である。

    【鑑別診断】

    精神病症状に伴う精神運動興奮,うつ病の激越,activation syndromeやセロトニン症候群でも不安・焦燥を生じるが,運動により自覚症状が軽減することはない。

    restless legs syndrome(むずむず脚症候群)は,夕方~夜間の眠気が生じる時間に下半身の異常感覚,周期性四肢運動,入眠困難をきたすが,アカシジアでは眠気との関連はない。

    遅発性ジスキネジアは,抗精神病薬の長期投与後に,口をもぐもぐさせる,舌なめずり,手足をリズミカルに動かす,体を前後に揺らすなどの常同運動が生じるが,不随意運動であり,主観的な苦痛は少ない。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    薬歴,服用状況を確認し,疑わしい薬剤があれば,減量・中止,他剤への置換,処方の単純化を検討する。クエチアピンやオランザピンは比較的アカシジアの発現が少ない。

    対症療法としては,極度の不安・焦燥を伴う場合はベンゾジアゼピン系薬剤(クロナゼパム,ジアゼパム)を,錐体外路症状を伴う場合やベンゾジアゼピンの依存・耐性が想定される場合は中枢性抗コリン薬(ビペリデン,トリヘキシフェニジル)を選択する。各々の有効性は約50%である。有害事象として中枢性抗コリン薬では,尿閉,イレウス,ドライマウスによる嚥下障害,認知機能障害,ベンゾジアゼピン系薬剤では,傾眠,ふらつき,依存,耐性などがありうるため,長期投与は避ける。

    β遮断薬(プロプラノロール等)は欧米では第一選択であるが,わが国では保険適用外である。β遮断薬は血圧低下や徐脈をきたしうるため,投与前後に血圧・脈拍をモニターする。

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