No.5086 (2021年10月16日発行) P.58
柴田綾子 (淀川キリスト教病院産婦人科副医長)
登録日: 2021-10-04
最終更新日: 2021-10-04
沢山の方の協力と尽力で、日本も新型コロナウイルス(コロナ)感染症の第5波を乗り越えてきています。そんな今、冬に備えて私たちができることの1つは「インフルエンザワクチン」かもしれません。インフルエンザのワクチンは、すべての妊娠期間および授乳中に安全に接種可能です。接種後2週間して抗体の効果が高まるため、インフルエンザのワクチンは10月中に接種することが推奨されています。
妊娠中のインフルエンザ感染には重症化/入院リスクがあります。2010〜16年の4カ国における調査では、ワクチン接種で妊娠中の入院を40%減少できたと報告されています1)。40編の論文のシステマティックレビューでは、妊娠中のワクチン接種で、胎児の奇形、死産、流産の増加は認められませんでした2)。妊娠中にワクチン接種すると、母体の体の中で作られた抗体が胎盤を通じて児にも移行します。生まれてきた児は、出生後にインフルエンザに感染しにくくなることも報告されています3)。
授乳を続けながらワクチンは接種可能です。妊娠中や授乳中の方がワクチン接種をすることで、母体で作られたインフルエンザの抗体が母乳へ移行し、乳幼児のインフルエンザ感染が減らせることが報告されています。実は、産後は不活化ワクチンだけでなく生ワクチンも安全に接種できます。インフルエンザワクチンによる母乳への抗体移行は、生ワクチンよりも不活化ワクチンの方が多いようです4)。
新型コロナのワクチンとその他のワクチンは、前後2週間は空ける必要があります。そのため日本では、インフルエンザと新型コロナのワクチンは2週間空ければ接種可能です。一方、米国では、新型コロナのワクチンは同じ日に接種可能です(それぞれ別の腕への接種を推奨)。日本では2020年10月よりワクチン接種間隔が変更され、不活化ワクチンと経口生ワクチンでは接種間隔を空ける必要がなくなりました。今後、新型コロナのワクチンとインフルエンザワクチンの接種間隔も変わっていく可能性があります。
【文献】
1)Thompson MG, et al: Clin Infect Dis.2019;68(9):1444-53.
2)Giles ML, et al: Hum Vaccin Immunother.2019;15(3):687-99.
3)Omer SB, et al:Lancet Respir Med. 2020;8(6):597-608.
4)Brady RC, et al:Vaccine. 2018;36(31):4663-71.
柴田綾子(淀川キリスト教病院産婦人科副医長)[新型コロナウイルス感染症][産科医療]