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美味しい塩[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(374)]

No.5085 (2021年10月09日発行) P.67

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2021-10-06

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エッセイを書く時、気になることがある。そのひとつは、我が家ではこうだけれど世間ではどうだろうか、ということについてだ。わざわざ聞いて回るほどのことでもなし、よくわからないままに書くことになる。

で、今回のテーマは塩である。はたして、どの家にも何種類もの塩が置かれているのだろうか。うちの台所には十種類とはいかないが、それに近い種類の塩が常備されている。料理に凝るからたくさん揃えてある、という訳ではない。おみやげにもらったものが蓄積しているにすぎないのである。

沖縄や伯方の海の塩であったり、アンデスやモンゴルの岩塩であったりする。料理に使えばいいのだろうけれど、なんとなくもったいない感があるのか、使われることはない。なので、口に入るのは天ぷらにつける時くらいしかなくて、なかなか減らない。

自分でも時々買ってくるんだから、おみやげとして手頃なのはわかる。美味しいかといえば、確かに美味しいような気はする。色や粒の大きさが違ったりするのも面白い。しかし、言うてもたかがしれてるわな。と、常々思っていた。ところが、である。

えらく高級そうなパッケージの塩が棚の奥の方から発掘された。先に書いたように、塩などどれも大きくは変わらないという固定観念の持ち主だったのだが、この塩は明らかに違う。おぉ、世の中にはえらく美味しい塩があるのだと認識を新たにした。

ごはんにかけてみたら、おかずなしでも十分いける。使い切ったら買ってみようかと思って通販サイトで調べてみたら腰が抜けた。なんと、100グラムが数千円もするのである。え~っ、そんなに高いのか。

あまりに味が違うので、海藻に含ませた海水で作る藻塩なのかと思ったのだが、そうではないらしい。海水を、職人さんが手間暇かけて天日だけで乾かして作られるそうだ。う~ん、原材料が同じでも、こんなに違う味の塩が出来るとは不思議でたまらん。

あわててホコリをかぶったパッケージを綺麗にしてみたのだが、いつ誰に貰ったのかはまったくわからない。バチ当たりなことであるが、こういう物をくれる時は、高価であるとちゃんと念を押してもらいたい。

天ぷらにつけ残した塩などは洗い流していたのだが、もったいないから、きちんと使い切ることにした。こういうところに、人間の小ささがでますなぁ、我ながら。

なかののつぶやき
「このお塩、塩にしては高価だけれど、値段の絶対値としてはそれほどではありません。それに、わたしの場合はケチくさく使うだけだから、100グラムもあれば相当に長持ちしそうです。ということで、使い切ったら買おうと心を決めました。って、この程度のことで真剣に考えてしまうのが、やっぱり人間のちっこさですわなぁ」

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