膝関節には主たる靱帯組織として内側側副靱帯(medial collateral ligament:MCL),前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL),後十字靱帯(posterior cruciate ligament:PCL),後外側支持機構(posterolateral structure:PLS)が存在し,各靱帯損傷の特徴を把握しておくことが重要である。本稿では頻度が高く,機能不全による症状が出現しやすいACL損傷を中心に述べる1)~5)。
ACLは膝関節の中心に存在し,大腿骨に対する脛骨の前方・回旋運動を制御している。問診にて受傷機転,既往歴,身体活動性を聴取する。視診および触診では,合併損傷に注意する。
スポーツにおけるジャンプ後の着地や走行中の急停止,方向転換などによる非接触型の損傷が多い。受傷時,何かが切れた音(ポップ)を感じることが多く,受傷後は膝関節内が腫れ,関節穿刺にて血性関節液を認める。
Lachmanテストが最も信頼性が高い徒手検査である。陳旧例では90°屈曲位における前方引き出しテストが陽性となる。pivot shiftテストおよびNテストは,大腿骨に対する脛骨外側顆の前方亜脱臼を再現するが,急性期には筋性防御のために検査が困難なことが多い。単純X線にてlateral femoral notch sign(側面像における大腿骨外側顆の陥凹)や裂離骨折(脛骨顆間隆起骨折)の有無,Segond骨折(外側関節包の脛骨付着部裂離骨折)の合併を確認する。MRIは,半月板や軟骨損傷および骨挫傷の把握に有用である。
ACLは治癒能力に乏しく,保存療法ではその機能は改善しないため膝前方不安定性が残存する可能性が高い。ACL損傷では,社会およびスポーツ復帰の希望など各々の身体活動性,不安定性の程度,合併損傷の有無により手術適応を決定する。膝動揺性検査装置やストレスX線は膝前方安定性の定量化に用いられる。MRIは,関節内構成体の損傷の確認に有用である。外傷後の膝関節周囲における炎症の沈静化のため,RICE〔R:rest(安静),I:ice(アイシング),C:compression(圧迫),E:elevation(患肢挙上)〕を指示する。保存療法や手術までの期間は膝軟性および硬性装具を用い二次損傷を予防する。
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