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最後のボヤキ[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(377)]

No.5088 (2021年10月30日発行) P.68

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2021-10-27

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講義も試験も6月に終わったし、もう学生についてぼやくことはなかろうと思っていたが甘かった。再試験のことをすっかり忘れてましたがな。定年前の最後の年だし、本試験の問題は思いっきりやさしくした。それでも、20名近くが不合格だった。

再試験も本試験と同じく、英語の教科書持ち込み可能にしてある。いつもどおり試験を始める前に、必要な物だけを机の上に残してくださいとアナウンスしたら、教科書を2冊置いている学生が2人いる。どうしてか、おわかりになられるだろうか?

教科書への書き込みはもちろん許可してある。2冊使いたいということは、少なくとも1冊は、日本語のメモをきちんと書き込んでいる同級生あるいは先輩から借りてきた本に違いない。バカか、そんなもんに頼るな。性根が腐っているとしか言いようがない。過去20年近くで初めてのことだ。もちろん1冊だけにするように命令した。

最後なので留年させたくないし、再試験の内容も、例年に比較してうんとやさしくした。試験問題は2問あって、うち1問は「急性炎症、慢性炎症、好中球、好酸球、マクロファージ、細菌、ウイルス、寄生虫、滲出液、肉芽腫性炎症、という10個のキーワードを使って、炎症について400~800字で説明しなさい」という内容である。

キーワードは基本的なものばかりなので、適当に組み合わせて少しばかり説明をいれれば、論理の通った答案を書ける簡単な問題だ。というつもりだったのだが、半数以上の学生は、論理を組み立てたりせずに、キーワードについて自分の知っている知識を書いて、それを並べているだけだ。散文、あるいは、ポエムである。なので、少しも炎症についての説明になっていない。

毎年のことながら、医学部の3年生にもなって、信じられないことを書く学生がいる。「寄生虫がマクロファージに貪食されて炎症が生じ」などと書かれたら失神しそうになる。医学知識云々以前、常識の範疇だろうが。ヘビが象を飲み込んだ『星の王子さま』の挿絵を思い出してしもたやないか。

まともに採点したら、10人近くが不合格で留年だ。最後の年度にそんなことはしたくない。かといって甲乙じゃなくて丙丁つけがたく、1~2名だけを不合格にするのも難しい。なので、全員を合格に。老教授はこうしてむなしく去って行くのでありました。

なかののつぶやき
「病理学総論を教えて18年、自分なりに一生懸命やってきたつもりですが、やる気のない学生は、どんなに笛を吹いても踊らないということだけはよくわかりました。しかし、教科書を2冊持ち込むような信じられないことをする学生が出現したことには悲しくなってしまいました。世も末ですわ。勉学意欲が低い学生には厳しく対処することが必要なのでしょうけれど、したところで意味もなさそうで、ため息しかありませんわ。はぁ」

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