医療界でも通念は時とともに変遷する。以前は抗血栓療法は多くなかったが、前世紀終盤以降高齢化の進展に伴い抗血栓療法が増加し、1つの帰結として消化管出血との関連が問題化してきた。抗血小板薬服用中の胃生検後の大量出血を巡る訴訟等もあり、内視鏡下生検等に際しても抗血栓薬休止が推奨されるようになった。しかし、その後心血管疾患の重要性は一層増し、逆に消化管出血等に際し抗凝固薬を休薬した結果脳梗塞になったとして訴訟になる例なども出てきた。かかる変化に対応し日本消化器内視鏡学会の抗血栓に関する指針・ガイドラインも改訂されてきた。
以下は2008年、消化管出血や生検等に際しては抗血栓薬の休薬が必要視されていた時期の例である。
88歳、男性で、22年前の冠動脈手術後、アスピリンを服用中だった。某日突然多量の黒色便にて受診。ショック状態であり緊急内視鏡で十二指腸潰瘍出血が確認され、多量の輸血を要した。アスピリン潰瘍と考えられ、アスピリン休薬、絶食とプロトンポンプ阻害薬(PPI)投与の方針とした。ところが入院当日、右半身不全麻痺が出現し、MRIで超急性期脳梗塞と診断された。低灌流圧の関与が考えられたが、消化管出血を考えて抗血栓療法は見合わされた。翌日、急に意識レベルが低下しショック状態となった。新規の出血はなく出血性ショックは否定的で、心電図変化とCK-MB上昇、心エコーでの壁運動低下から、急性心筋梗塞による心不全と診断した。
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