脅迫状が送られた女優を守るため、孤島に招かれた女探偵、コーデリアであったが、開演を前にして遺体が発見され、謎解きが始まる(P・D・ジェイムズ著、小泉喜美子訳、早川書房、1987年刊)
これは、イギリスの女流作家、フィリス・ドロシー・ジェイムズ(P・D・ジェイムズ)の1982年の作品である。長らくファンである筆者にとっては、彼女のどの作品も甲乙つけがたい魅力がある。
P・D・ジェイムズは「新ミステリの女王」と称えられた人で、アダム・ダルグリッシュ警視を主人公とした重厚な雰囲気の作品で知られている。
『策謀と欲望』(1989年)では、原子力発電所を持つ荒涼とした地方の風景を背景に、残酷なシリアルキラー、「ホイッスラー」の正体が暴かれていく。また、『黒い塔』(1975年)においては、不審死が続く障害者用の療養施設を舞台とし、探偵と癖のある容疑者たちの「濃厚」なやり取りが進行する。これらは、セイヤーズやテイ、バークリーらの英国ミステリの伝統を引き継ぐ作品である。
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