下顎頭が関節可動域を越えて移動し下顎窩から逸脱し,自力で整復できなくなった状態のことを言う。ほとんどの場合が関節窩の前方に位置する前方脱臼である。原因としては,下顎窩・関節隆起・下顎頭などの硬組織の形態異常や,靱帯および関節包の弛緩,筋の協調失調など,顎運動に関係する軟組織の異常などがある。病態分類として,①急性(単純性),②習慣性,③陳旧性,の3つが主であり,特に習慣性顎関節脱臼は高齢者に多く認められる。
顎関節部疼痛と顎運動制限,閉口不能による咀嚼,発音,嚥下障害がみられ,患側耳前部は陥凹してさらにその前方は隆起が触れる(ただし,肥満患者では明らかではない)。両側に脱臼が認められると,オトガイ部の前方突出,面長顔貌,両側鼻唇溝消失,流涎が認められる。片側の場合は,オトガイ部の健側偏位,交叉咬合,患側鼻唇溝消失が認められる。
パノラマX線画像により,下顎頭が下顎窩より逸脱し,前下方に固定されているのが確認できる。整復困難な症例については,CTやMRIによる顎関節部の精査が必要となる。
脱臼の整復と再発防止が重要な治療方針となる。新鮮症例であれば,できるだけ早期に筋緊張を除去した上で整復し,一定期間固定を行う。しかし,習慣性顎関節脱臼症例で度重なる整復により恐怖心が増大したり,疼痛が増大して整復が困難となったり,患者のQOLが著しく低下したりする場合は,外科療法が適応となる。
残り1,145文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する