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越えてはいけない一線[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(383)]

No.5094 (2021年12月11日発行) P.67

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2021-12-08

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平日、午前8時台の新幹線で、缶ビールと缶ハイボールをたて続けに飲んでいる人がいた。どう見ても観光ではなくてビジネスだ。こういうのは、ものすごく気になる。というのは、朝からアルコールを飲んでみたいけれど、我慢し続けているからなのだ。

全く経験がないかというと、そうでもない。高級ホテルで朝食ブッフェにシャンパンが置かれていることがある。これはまぁ、なんというか、朝の気付けみたいなもんだろうと解釈して飲む。ただし、必ずジュースで薄めて、グラスに一杯だけと決めている。

世の中には、それは絶対にしたらあかんということがありはしないか。私にとってその最大のものが、朝からアルコールなのだ(但し、お正月は除く)。その一線を越えたら、これまで築き上げてきたものが一気に崩れ落ちるのではないかという恐怖感。

とはいえ、いつかはトライしたい。家でやって癖になったら困るから、初心者には温泉旅館での朝ビールというのが妥当ではないかと考えておる。しかし、あれってどうなんやろ。仲居さんに、なんやこの客、人間のカスやな、朝からビールを飲んで、とか思われたりしていないのでありましょうか。

やったらあかんと強く思っているから、すごくやってみたいだけかもしれない。もしそうなら、いっぺんやってみたほうがいいかもしれん。なんやこんなもんやったんか、もう朝ビールなんか二度としたくないわ、となるかもしれない。けど、やっぱりずるずるといくかもという気がしてこわい。

絶対にやってはいけないがために、むずむずとやってみたくなることがある。いちばん困ったのは、天皇陛下(いまの上皇)が出席された学会での茶会だ。ああいうのは、園遊会といっしょで、歩かれるコースや話しかける人があらかじめ決められている。

私なんぞは、単にお茶を飲んで立っているだけのエキストラみたいなものだ。ふと考えが浮かぶ。ここで陛下に抱きついたらどうなるだろうかと。法律に触れるわけではないが、大騒ぎになるにちがいない。もちろん、思いとどまった。大人だもの。

非常ベルに「緊急時以外押してはいけません」と書かれていることがある。禁止するからイタズラをしたくなる人がでるのではないか。「緊急時にのみ押してください」とだけ書くべきとちゃうんか。そんなしょうもないことを思うのは私だけやろうか。

なかののつぶやき
「ビルの非常ベル、ボタンがあって、その手前に押すと割れるガラスの保護板がついているやつがありますよね。大昔、学生時代のことですけど、お酒を飲みながら、ボタンを押すことなく、ガラスだけを割ることができるかどうかの激論になりました。そんなもんできるに決まってるわ派が、大丈夫やねんからやってみるということに。そしてビル中に響き渡る大音響…。飛んできたガードマンさんに平謝りに謝ったことはいうまでもありません」

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