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「大先生の祟り」問題[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(384)]

No.5095 (2021年12月18日発行) P.67

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2021-12-15

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大型研究費の採択ではヒアリング審査のおこなわれることが多い。書面だけではわからない細かなことを聞くためだ。

ヒアリングのプレゼンテーションには、明らかに上手下手がある。すごくいい内容なのにプレゼンがまずくて不採択にせざるをえないこともあるし、逆に、勢いにおされて採択してしまうこともある。なので、ヒアリングは必要だけれど、そればかり重視するのはいかがなものかと考えている。

ほかに、「大先生の祟り」と勝手に名付けている問題がある。ヒアリング審査の委員は匿名が基本だ。けれど、研究など狭い世界である。顔を見れば誰かがわかってしまうことも多い。分野が近いほど質問をしなければならない状況になるから、なおさらだ。

大先生というのは、えてして採択されて当然と考えておられることが多い。業績がたくさんあるのだから、当然といえば当然ではある。さて,そのような先生が不採択になった時、その原因となった犯人捜しをされる可能性はないだろうか。

もしかして、あいつのせいで落とされたと思われたりしたら、別の研究費採択などでペナルティーが与えられるかもしれない。それなら、厳しい質問はやめておこうという心理が働かないとは言えまい。はっきりと意識しなくとも、ある程度の影響はありそうだ。これが「大先生の祟り」問題である。

まことしやかな噂がある。某大先生のヒアリングで、果敢にも、かなり厳しい質問をした先生がおられた。採否にかかわるような内容で、某大先生のお気に召さなかったらしく、「それはどういう意味ですか」との恐ろしい返しがあった。で、質問者の先生はびびってしまい「あ、もうその件はいいです」と撤回されたとか。本当かどうかは別として、あったとしても不思議ではない。

コロナ禍でZoomを介してのヒアリングもあった。通常は、その場でプレゼンをして質疑応答に入るのだが、この場合、先に録画したプレゼンを前もって見ておいて、当日に質疑応答だけはZoomでやるという形式だった。これはすごく好評だった。

このやり方を応用すれば、「大先生の祟り」問題を解消できるかもしれない。顔出しせずに質問する。そして、声はボイスチェンジャーでわからないようにする。でも、わたしみたいに、ベタベタの大阪弁でしゃべったらバレてしまうかもしれませんなぁ。

なかののつぶやき
「あの大先生に嫌われてるから研究費をもらえないと嘆く人が時々います。けれど、経験上、よほどのことがない限りそのようなことはありえません。というのは、ほとんどすべての研究費の採択が合議制で、嫌いだからという理由で貶したところで、そんな意見は通らないからです。なので、『大先生の祟り』問題は原理的には生じないはずです。でも、心理的にはあるんですよねぇ、これが」

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