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佐藤泰然(6)[連載小説「群星光芒」228]

No.4816 (2016年08月13日発行) P.66

篠田達明

登録日: 2016-09-16

最終更新日: 2017-01-20

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  • 佐藤泰然の後妻タキは長男の惣三郎と次男の良順を生んだ。幼い惣三郎と良順はタキの義兄山内徳右衛門の3人の息子たち、作左衛門、六三郎、徳三郎と実の兄弟のように育った。

    麹町の蘭方医松本良甫は泰然の親友のひとりだった。松本家は代々幕府の奥医師を務める家柄なのだが、5代松本善甫のとき不祥事が生じた。

    その日、善甫が駕籠に乗って下城の途中、路傍で火消し人足が犬を殴っているのを見た。怒った善甫は駕篭から飛び出し、

    「下郎、なにをする!」と抜刀して傷を負わせた。

    葵の紋服を着たままの仕業だったため、

    「将軍家御下賜の紋服を着用して狼藉をはたらくとは不届き千万」と咎められ、罪を得て一家離散の憂目に遭った。

    善甫の娘ミツは祖父の医師藪原通玄に引きとられ、婿養子をとって松本家の血脈を繋いだ。その長男が良甫で、泰然より3歳年上だった。

    良甫は貧困に耐えながら江戸京橋の蘭方医足立長雋の門に入り、刻苦して蘭方を修め松本家再興に努力した。

    「学深く智識広く、老母および弟妹に孝悌なり」と公儀に認められ、良甫は奥医師に取り立てられた。

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