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読書委員の2年間[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(387)]

No.5098 (2022年01月08日発行) P.67

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2022-01-05

最終更新日: 2021-12-28

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読売新聞の読書委員を2年間務め終えた。2週間に1回、委員会のために東京へ通っていた。と書きたいところだが、緊急事態宣言の間はやむなくZoom委員会だった。

間違いなく人生の十大イベントの中に入る大きな経験だった。およそ2週間に1回の割合で書評、長いもので800字程度を書いた。というと、そう大したことないように聞こえるかもしれない。しかし、読者数が多いだけに、相当に気を遣う作業だった。

それだけの字数の中にできるだけ多くの情報を入れ込む。さらに、書評でその本を読みたくなるような「煽り」もしたい。書評が出た日にはいつもAmazonでの順位がどの程度上がるかをチェックしていた。あまりなかったが、2桁にまで上がれば万々歳だ。

どのような分野の本の書評をしたかは以下のとおり。「科学系」とあるのは医学・生物系以外の科学分野の本である。


2020年 2021年
小説
3 2 5
医学・生物系
3 8 11
科学系
7 7 14
それ以外
8 5 13
21 22 43

圧倒的にノンフィクションが多い。これには理由がある。私にとって、小説の書評は相当に難易度が高いからだ。ノンフィクションの良し悪しはおおよそ意見が一致するが、小説には好き嫌いという要素がかなり強い。それに、ネタバレさせずに小説の内容を面白く紹介するのは至難の業である。

それでも果敢に、カズオ・イシグロのノーベル文学賞受賞後第一作『クララとお日さま』には挑戦させてもらった。直木賞作家・木内昇さん(女性です)とのクロスレビュー、すなわち2人での同時書評だった。悩んで何度も書き直したけれど、楽しかった。

特にルールはないのだが、同じ出版社の本の書評を続けるのはまずいような気がしてしまう。実際に取り上げたのは、贔屓にしたつもりはないけど文藝春秋が5冊でトップ、2位が講談社の3冊、ついで岩波書店、紀伊國屋書店、集英社、中央公論新社、ミシマ社、みすず書房が2冊ずつの3位だった。

この2年間は読書委員会の出席と書評執筆が生活のペースメーカーになっていた。けっこうしんどかったけれど、とっても刺激的で楽しかった。しばらくは読書委員会ロスの日が続きそうな気がしてちょっと怖い。

なかののつぶやき
「読売新聞オンラインで過去の書評が読めるようになっていますので、興味がおありの方は【読売新聞×書評×仲野】とかで検索してみてください。それぞれの書評に想い出がありますが、『クララとお日さま』、『きみが死んだあとで』、『探究する精神―職業としての基礎科学』、『対論! 生命誕生の謎』、『ヒトはなぜ「がん」になるのか』、『世界は「関係」でできている 美しくも過激な量子論』、『グランドシャトー』といったあたりが特にオススメであります」

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