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書類の無駄[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(390)]

No.5101 (2022年01月29日発行) P.69

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2022-01-26

最終更新日: 2022-01-25

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いくつかの大学で非常勤講師を続けてきたが、定年を契機にすべて引退することにした。そのうちのひとつから、退職願を出してほしいとの依頼があった。

ん? 単年度契約やから、年度末で自動的に切れるんとちゃうんか。と思いながらも、先方の都合なのだからと承諾した。が、書類が送られてきて、さすがに少し驚いた。

「退職願(日付) ○○大学理事長・何某殿 都合により令和4年3月31日をもって退職いたしたく存じます。 大阪大学大学院教授・仲野徹」を自筆で書いて返送してください、という依頼の文書と、その見本が届いたからだ。ひぇ~、いまどき手書きかよ。

達筆ならば、ちゃちゃっと書けばいいのだから何ら問題はない。しかし、字はむっちゃ下手、どこへ出しても恥ずかしい丸文字だ。それでも浮世の義理、書かねばなるまい。ほんのわずかの文字数なのに、下書きしたりして10分以上もかかってしもた。

プリントアウトして名前だけ手書きでどうしてあかんのか、全く理解に苦しむ。もしかすると、非常勤講師の労働契約とかで大きくもめたことがあったのかもしれない。たとえそうだったとしても、長年勤めてきたとはいえ、年に1回の講義しかしてこなかったんだから、私には関係なかろうが。

履歴書、いまはすべてプリンターで印字だが、ワープロが出だしたころは、「自筆で記入のこと」という注のあったことなどを思い出す。いやぁ、そんな時代が終わってしまってよかったとつくづく思う。

便利になったもので、書類のほとんどはコンピューター入力である。手書きよりも速いし、何より美しい。仕事柄、いろいろな書類に記入するが、提出するうちで圧倒的に多いのは、謝金の振り込み先と履歴書である。これについては大いに文句がある。

どちらも、内容さえわかればいいはずなのに、わざわざ書式が指定されていることがほとんどなのだ。だから、作り置いた書類を使い回す訳にもいかず、その都度、入力する必要がある。中には、どうしたら入力にこんなに手間のかかるアホな書式を作ることができるのかと言いたくなるほどひどいものもあったりして、猛烈に腹がたつ。

1回ずつの手間はわずかでも、塵も積もれば山となる。ちっこいことかもしれんが、日本の生産性の低さはこういったことも原因とちゃうのかと、ぼやいとります。

なかののつぶやき
「米寿に近い高校時代の恩師との食事会がありました。で、字の上手い下手の話になって、昔は履歴書というものは毛筆で自筆やったとか。同席していた高校で書道の先生をしている同級生に、昔、『仲野君の字やったら就職は絶対に不利やわ』と言われたことがあるのを思い出しました。そんな時に、ほっといてくれよとか思うから、いつまでたっても字が下手なままなんでしょうね」

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