外耳道内に異物が入り込んでいる状態で小児に多い。小児の場合は小玩具や小石などの無生異物を自分で入れることが多く,成人の場合は綿棒の先端の綿花など耳掃除中の遺残物が多い1)2)。昆虫などの有生異物は,小児では外耳道入口部が狭いため,成人と比較して有意に少ない1)。
外耳道内を観察し,異物が認められれば診断は容易である。耳痛はある場合とない場合がある。異物の種類,位置,外耳道や鼓膜の状態,診察・処置への協力が可能かどうかを確認し,処置の方法を検討する。
可能な範囲で本人や保護者から異物挿入時の状況と種類を聞き取るが,小児の場合,責めたり叱ったりしないことも大切である。玩具などは,できれば異物と同じものを持参させると診断や方針決定に役立つ。
まず外耳道の状況,異物の種類と状況を観察する。観察は光源付き拡大耳鏡や内視鏡でも可能であるが,摘出は手術用顕微鏡下に行う。できるだけ早く,安全に,1回の操作で摘出することが大切である。時間が経過すると外耳道などに損傷をきたす異物もある。また,小児では処置時に痛みを生じると,その後の操作に協力が得られなくなる。協力が得られない場合や疼痛が強い場合は全身麻酔下に摘出する。摘出が難しければ無理をせず,耳鼻咽喉科へ紹介することも検討する。
無生異物は耳用の鑷子や鉗子で把持できれば,摘出は容易である。BB弾など形が丸く表面が滑らかな異物は鉗子で把持しにくい。無理をすると骨部外耳道に嵌頓する可能性がある。操作を繰り返すことで外耳道が腫脹すると,さらに摘出が困難になる。吸引によっても摘出不可能な場合,少しでも隙間があれば耳用小鈎を差し込んで,引っかけて摘出するが,外耳道の損傷に注意が必要である。生理食塩水による洗浄は砂などの細かい異物には有効だが,水分により膨張する異物もある。ボタン電池は早急に摘出する必要がある3)。ボタン電池は時間が経過すると低電圧の直流電流による組織障害や電池内容の漏出による強い組織障害を起こし,外耳道だけでなく顔面神経や内耳の障害を引き起こすことがある。外耳道が湿潤していると組織障害を悪化させるため,洗浄は禁忌である。
甲虫などの有生異物は,外耳道内で暴れて周囲を損傷する可能性があるため,生理食塩水による耳浴やキシロカイン®(リドカイン塩酸塩)の噴霧で殺虫してから摘出する。キシロカイン®は,鼓膜穿孔があると内耳麻酔が生じめまいが起こるので,鼓膜穿孔が疑われる場合は使用しない。植物性油を点耳して殺す方法もある。マダニは皮膚に強く咬着するので口器を残さないように,また虫体を圧迫するとリケッチアなどの病原体が咬傷から進入する可能性があるため,圧迫しないように摘出する2)。
いずれの異物も摘出後は外耳道を十分に清掃し,外耳道や鼓膜に損傷があれば外用薬,必要なら経口抗菌薬を投与する。マダニの場合,日本紅斑熱などの予防のため抗菌薬を投与し,全身状態を観察する。
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