No.5107 (2022年03月12日発行) P.60
西﨑祐史 (順天堂大学医学部医学教育研究室先任准教授)
登録日: 2022-02-25
最終更新日: 2022-02-25
2004年度より、スーパーローテーションおよびマッチングシステムを伴う新医師臨床研修制度が導入された。卒後2年間の臨床研修が義務化されたが、研修プログラムの運営は、各研修施設の裁量に委ねられている部分が大きいため、研修プログラムの人気に大きな差が生まれてきている。各研修施設は優秀な人材を確保するため、日々、医学生に人気の研修プログラムの構築に励んでいる。
また、最近の医学生は、スマートフォンやソーシャル・ネットワーキング・サービス(social networking service:SNS)等の通信技術を駆使し、各研修プログラム内容の詳細や長所、倍率等の最新情報をいつでもどこでも容易に入手することが可能なため、各研修施設は人気の競争に勝つために、今まで以上の努力が必要となってきている。そこで、私たちは医師臨床研修マッチング協議会(Japan Residency Matching Program:JRMP)1)から公開されているマッチング情報を用いて、医学生から人気の高い研修プログラムの人気の要素を検討した。
研究デザインは横断研究で、約1300研修プログラムを対象とし、医学生から人気の高い研修プログラムと関連する因子を重回帰分析で検討した。その結果、人気と有意に関連したのは、「人口規模」「市中病院」「救急車取り扱い件数」の3因子であった2)。意外ではあるが、「給料」や「ボーナス」は人気と関連を認めなかった。また、「3次救急の有無」も人気と関連しなかった。
昨今の市中病院人気は、既知の事実である。人口規模についても、都市部を好む傾向にある若者の特徴と合致していると言えるだろう。また、「救急車取り扱い件数」と人気は有意に関連したが、同時に評価した「3次救急の有無」は人気と関連しなかった。このことを鑑みると、研修医は、救急外来にて重症患者ばかりの診療を好むのではなく、軽症から重症までの幅広い重症度の患者のプライマリケアの経験を求めていることがわかる。
人気の研修プログラムと有意に関連していることが示された3因子の中で、「人口規模」および「市中病院」は、施設が介入できる内容ではない。したがって、研修プログラムをより魅力的な内容にするためには、救急外来での教育システムの充実化が鍵だと思われる。具体的には、救急医療の現場において研修医が多岐にわたる疾患や症候のファーストタッチを経験できる体制を構築し、一貫性のある指導法を提供することが重要であろう。
【文献】
1)医師臨床研修マッチング協議会(ホームページ). https://www.jrmp.jp/
2)Nishizaki, Y, et al:J Gen Fam Med. 2020;21(6):242-7.
西﨑祐史(順天堂大学医学部医学教育研究室先任准教授)[研修医][働き方改革][総合診療]