2016年初めに大阪中心街にて乗用車が暴走し,歩行者を次々と撥ね,1人が死亡,8人が重軽傷を負う大事故があった。運転手の50歳代男性も心肺停止状態で発見され,司法解剖で大動脈解離から心タンポナーデを起こしていたことがわかった。おそらくは,発症後に循環機能低下から意識を消失し,運転操作を誤ったものと思われた。このような運転手の突然死を,運転中の病死と呼び,当初英語では“natural death at the wheel”と呼ばれていた。
自家用車が一般に普及しはじめた1960年代から運転中の病死は報告されるようになり,軽微な衝突や道路脇に停止した車両内で死亡した状態で発見される場合が多く,道路交通上の危険性は低いと当初結論された1)。しかし,高齢者の自動車運転や高速走行化から,重大な衝突事故がその後報告されるようになる。国内では,東京都監察医務院における徳留2)の調査研究が有名である。それは9割以上が中高年の男性で,死因としては虚血性心疾患などの循環器系疾患が約半数を占め,脳血管疾患も多く,都内ではタクシー運転手を中心とした職業運転手が多く含まれる,という報告であった。
技術革新によって現在試みられている自動化運転が,運転中の病死や高速道路の逆走といった,高齢運転手の身体要因や判断力に起因すると考えられる事故の対策になりうるのか注目される。
【文献】
1) Baker SP, et al:N Engl J Med. 1970;283(8): 405-9.
2) 徳留省悟:賠償医学. 1988;7:77-82.
【解説】
大澤資樹 東海大学基盤診療学系法医学教授