株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

特集:臨床法医外来での被虐待児診察

No.5147 (2022年12月17日発行) P.18

齋藤直樹 (千葉大学大学院医学研究院附属法医学教育研究センター/千葉大学医学部附属病院小児科)

登録日: 2022-12-16

最終更新日: 2022-12-15

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2005年三重大学医学部卒業。千葉県内で初期研修修了後,千葉大学医学部小児科に入局。千葉大学病院や千葉県内基幹病院勤務を経て,2014年から千葉大学病院で児童虐待対応を,また千葉大法医学教室でも特任助教を兼任して被虐待児の診察・評価を行う。2020年より現職。

1 医学的に公正な判断を下す学問「法医学」
▶ 臨床医が虐待に対して医学評価をする場合,かなりのストレスがかかる。
▶ 法医学は臨床医学と異なり治療は行わないが,解剖をもとに成傷機転を考察することに長けており,法的手続きに耐えうる証拠採取や記録,鑑定を行える。
▶ 上記から,法医学が虐待を含む犯罪や事故関連の診察に関わる意義がある。

2 臨床法医学について
▶ 臨床法医学は比較的新しい,発展途上の学問分野である。
▶ 臨床法医学は法的手続き(傷害罪など)や交通事故当事者の損傷評価,児童虐待・高齢者虐待・性暴力の被害者に対する診察・薬毒物検査を含む医学的検査などが,その実務的な業務として挙げられる。
▶ 千葉大学の臨床法医学では,法医解剖結果等を社会に還元している。
▶ 海外(特に北欧諸国)では大学法医学教室や法医学研究所内に臨床法医学外来が設置されているところもあるが,業務内容などは統一されていない。
▶ 日本においては一部の法医学教室でのみ臨床法医学を行っており,実務的にも学問的にも確たる体系を成していない。

3 千葉大学大学院医学研究院附属法医学教育研究センター臨床法医学部門
▶ 2014年のセンター開設時から専門分野のひとつとして臨床法医学部門がある。
▶ 千葉県内外の児童相談所,警察,検察などから虐待評価の依頼を受けている。
▶ 当初から臨床医(小児科医)と連携して生体鑑定を行っている。
▶ 依頼数は増加傾向であり,内訳は診療情報や外表写真での評価が大半を占めていたが,直接患者を診察する生体診察が増加している。
▶ 児童の移動が困難なときは,法医学教室員が出張して直接所見をとっている。
▶ 臨床法医学に関わるスタッフには,法医学者,看護師,法歯学者,法医画像診断医,法中毒学者がおり,総合的な判断に努めている。
▶ 最終的な意見書は複数の法医学者等で検討され,独善的でなく整合性のあるものを発行している。

4 千葉大学医学部附属病院小児科臨床法医外来
▶ 臨床と法医学のさらなる連携を目的として,2018年,大学病院小児科に臨床法医外来を開設した。これは全国の大学病院で初めての試みとなる。
▶ 法医学者による臨床法医学的全身診察と,病院診察の利点を内包した虐待評価ができる。
▶ 窓口は法医学教室として,可及的速やかに診察を行う。待機的な評価や後に検査の必要性が生じたものも外来の予約枠をとって診察を行う。
▶ 損傷の評価においては,文言,図示,全身の写真記録を行っている。
▶ 検査に関しては,各種クライテリアを参照して,選択している。
▶ 生体診察において当初判明していなかった損傷や検査異常が発見され,指摘されていなかった基礎疾患や新たな虐待が判明することもあった。

5 今後の課題
▶ 児童福祉法改正があり,児童虐待対応において法医学の関与が注目される。
▶ 一方,児童相談所と法医学の相互理解が進んでいない現実がある。
▶ 日本で活動する法医学者は臨床医と比べてとても少なく,増加し続ける児童虐待のすべてに対応することは困難である。
▶ 我々は,多機関連携や臨床医への法医学的トレーニングを行い,虐待評価の質を高め,少ない法医学リソースを最大限活かすようにしている。
▶ 今後ICTなどの技術を用いて法医学への物理的・心理的障壁を取り除き,持続可能な質の高い虐待診察を行っていきたい。

プレミアム会員向けコンテンツです(最新の記事のみ無料会員も閲覧可)
→ログインした状態で続きを読む

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top