【類似事例を収集しての事故等の分析,それに基づく改善勧告がなされている】
死因統計は,国民の疾病構造の把握,公衆衛生上の課題の発見および解決,医療政策の立案の基礎であるが,わが国ではそこに法医解剖情報が必ずしも反映されていない。その一因として,法医解剖事例のデータベース(以下,DB)化の未整備がある。
諸外国には国家・州単位の網羅的な異状死DBがいくつか存在する。オーストラリアの異状死DBは全州およびニュージーランドをカバーし,故人の属性,死亡状況,事故や自殺のリスク要因等の疫学情報が収集され,警察情報,解剖記録などの文書データにもリンクする。コロナー・法医はすべての項目に,研究者や政府機関,各種団体も条件付きでアクセスでき,類似事例を収集しての事故等の分析,それに基づく改善勧告がなされている。米国の一例として,ニューメキシコ州死因究明機関の擁するDBは,専属の疫学者がデータ解析を担い,公衆衛生上のイベント発生時の早期実態把握,原因解明に大きな役割を果たしてきた。共通点として,webベースで多種の項目を選択入力および呼び出し可能なシステム,データの質やセキュリティーを担保しうる人員や設備,主に国家・州による費用拠出,がある。
わが国では日本法医学会が各施設の解剖事例情報をエクセルデータで収集しているが,項目がごく限定的,データ欠損も目立つなど,疫学調査研究のリソースとしては不十分である。オーストラリアのDBの運営費用は,日本円換算で年間約1億4000万円という。学会単位ではなく国家としての予算編成が望まれる。
【解説】
山口るつ子 千葉大学附属法医学教育研究センター