【遺族,医療機関,社会のいずれにも有益に還元しうる情報が見出される】
Child Death Review(CDR)とは,子どもの死亡を検証し再発予防に有効な勧告等を行い,子どもの健康や社会の安全への寄与を目的とする,米国に起源を有する制度である。近年,わが国でも日本小児科学会を中心に法制化を求める動きがあり,2018(平成30)年12月成立の成育基本法で基本的施策のひとつとして挙げられたが,医療機関による調査だけでは解剖結果等を入手できない等の問題も指摘されつつあり,不十分・不正確な情報による検証は社会や個人への不利益になりうることに注意する必要がある。
CDRが普及している英米では,解剖を含む法医学的調査は警察による捜査ではなく独立した専門機関であるcoroner事務所等によりなされるため,CDRなど公共の利益を目的とした情報共有が比較的容易に可能になる背景がある。一方,わが国で解剖情報が臨床側に開示されない理由として,法医解剖の大半を占める司法解剖の情報は刑事記録の扱いとなるため,刑事訴訟法の規定により原則的に公判まで開示されないことや,多くの事例が不起訴等により裁判まで至らず開示されないままであること等が挙げられる。
千葉県では正確な死因情報をもとにCDRを行うことを目的とし,法医学教室と医療機関を中心に行政機関の参加を呼びかけ,守秘義務に関する誓約書の提出により情報共有を可能にして,年3回の研究会を開催している。多機関・多職種による検討の結果,遺族,医療機関,社会のいずれにも有益に還元しうる情報が見出されたが,還元の方法は未整理であり,これについて整理していくことを課題としている。
【解説】
千葉文子 東京大学法医学・医事法学/ 千葉大学附属法医学教育研究センター講師