腕神経叢損傷(brachial plexus injury:BPI)は,上肢の最も重篤な末梢神経損傷である。発生原因の多くは交通事故などによる高エネルギー外傷であるが,分娩時の神経の牽引による分娩麻痺や放射線照射による障害も存在する。小児の分娩麻痺は治療方針や予後が異なるため,本稿では外傷性のBPIについて解説する。
損傷型は,歴史的に上位型,下位型,全型と分類されてきた。しかし現在では,損傷神経根により,C5,6型,C5-7型,C5-8型,C5-T1型(全型)と分類するのが適当である。また,下位型は全型損傷の上位根の自然回復例と考えられている。C5,6型では肘屈曲と肩の麻痺,C5-7型ではさらに手関節伸展の筋力低下,C5-8型ではさらに手指伸展や屈曲,内在筋の筋力低下が起こる。全型では肩以下の完全麻痺となる。
損傷型の診断のうち最も重要なものが,C5-7型とC5-8型の鑑別である。これは後述するが,肘屈曲再建において,C5-7型ではOberlin法が適応されるからである1)。臨床所見のみでは鑑別が困難なことが多いが,筋力評価においてC5-7型では大胸筋胸骨部,上腕三頭筋の筋力が良好であること,知覚検査においてC5-8型では小指に知覚障害が及んでいることが参考になる。
BPIの治療に影響する因子は,損傷型や損傷部位は当然のことであるが,患者の年齢や性別,受傷してからの期間,合併症の有無を考慮する必要がある。また,長期間の治療が必要になるため,患者の社会的条件(保険,経済的サポートなど)や患者自身の希望や意欲も重要な因子になる。手術方法は,新鮮例に対する神経再建術(神経移植術,神経交差縫合術),筋肉移植術と二次的再建術(関節固定術,腱移行術など)に大きくわけられる。本稿では,各損傷型の新鮮例に対する神経再建術と筋肉移植術について解説する。
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