急性脳炎は,急性発症する脳実質の炎症と定義され,病原には中枢神経系へのウイルス・細菌・結核菌・真菌・寄生虫,急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM),抗N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体脳炎を含む自己免疫性脳炎(autoimmune encephalitis:AE)など多岐にわたる。
急性脳炎は,初期治療が患者の転帰に大きく影響する,緊急対応疾患である。早期治療導入として,単純ヘルペス脳炎(herpes simplex virus encephalitis:HSVE)や水痘・帯状疱疹ウイルス脳炎(varicella-zoster virus encephalitis:VZVE)に対するアシクロビルやヒトヘルペスウイルス6型(human herpesvirus 6:HHV6)脳炎に対するホスカルネット,AEに対する各種免疫療法などが必要である。ウイルス脳炎が疑われた場合,入院6時間以内にアシクロビルを開始する1)2)。
脳炎が疑われた場合,迅速に画像検査(頭部CTやMRI),髄液検査,脳波検査を行い,その病因に比較的特徴的な所見を検討する。病因確定検査として,髄液の塗抹培養,病原体のウイルス分離や抗原・抗体の測定,病原体のpolymerase chain reaction(PCR)検査,およびAEの神経抗体検出などが必要である。
症状は,発熱と意識障害を含む脳症状からなる。
急性から亜急性経過で,発熱,また感冒様症状の先行,意識障害や意識の変容,痙攣,急性の認知機能障害や性格変化,精神症状,神経巣症状,および不随意運動が出現する。
HSVE:別稿「単純ヘルペス脳炎」を参照。
VZVE:通常,急性経過で発熱・意識障害・痙攣・頭痛を呈する。皮疹がない場合もあり留意する。病態として血管炎を伴っており,脳梗塞の併発もある。
HHV6脳炎:造血幹細胞移植後などに発症し,小児のみならず成人でもみられる。症候はHSVEに類似する。移植後の患者に即時記憶障害が出現した場合,直ちにMRIの検索が必要である。
抗NMDA受容体脳炎:別稿「自己免疫性脳炎」を参照。
髄液所見:ウイルス脳炎やAEでは,単核球優位の細胞増多と蛋白濃度上昇を呈する。
頭部MRI:VZVEは異常信号域を認めない場合も多いが,脳梗塞の併発を認める場合もある。HHV6脳炎では,両側内側側頭葉の左右対称性病巣が多い3)。
HSVEおよびAEの検査所見については別稿を参照。
急性脳炎は迅速な治療開始が必要なため,病因確定を待たずに治療を開始する。
ウイルス脳炎を疑ったら,たとえ髄液所見が異常なく,また頭部MRIで異常がなくても,アシクロビルは開始し,その後2回髄液を用いたPCRで陰性を確認後に終了とする2)。なお,HSVE確定例で,アシクロビル治療に抵抗性の場合には,ホスカルネットを追加する2)。HSVEでもサイトカインカスケードが関与していること,VZVEでは血管炎が存在すること,またADEMやAEがあることにより,入院時にアシクロビルと副腎皮質ステロイドを開始する。一方,病因として,細菌や結核,および真菌が疑われた場合には,これら疾患に対する抗菌薬も併用する。
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