亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)は,麻疹ウイルスの脳内持続感染の結果生ずる,麻疹の遅発性中枢神経合併症である。麻疹罹患後,一般には数年~十数年の長い潜伏期を経て軽微な大脳皮質症状で発症し,その後は亜急性進行性の経過をとり,多くは全大脳皮質機能を喪失して死に至る。自然寛解は稀であり,確実な治療法は確立されておらず,現在においても予後不良である。
自然麻疹罹患後,数年~十数年という長い潜伏期間を経て,軽微な大脳皮質症状で発症する。麻疹罹患は2歳未満,特に1歳未満であることが多い。病初期には大脳の機能低下による性格変化,行動異常,睡眠障害,記銘力低下,学力低下等の比較的軽微な精神神経症状がみられる(JabbourⅠ期)。緩徐に進行し,やがて様々な痙攣,麻痺,特徴的なミオクローヌスなどの運動徴候が出現し,次第に歩行や坐位が不能になり,知能低下も顕著となる(Ⅱ期)。意識障害が進行し,昏睡に至る。球麻痺症状も出現し,経口摂取は不能となる。呼吸,循環,体温などの自律神経機能も侵される(Ⅲ期)。さらに進行するとミオクローヌスはほとんど消失し,Moro様反射などの原始反射が出現,筋緊張は著明に亢進して体幹四肢が拘縮する(Ⅳ期)。通常は数カ月~数年かけて進行し,死に至る。
血清および髄液中の麻疹抗体価が高値を示す。特に髄液中の特異抗体価高値は中枢神経系における麻疹ウイルスに対する免疫反応を示唆する所見であり,検出されれば診断的意義は高い。
JabbourⅡ~Ⅲ期にかけて,左右同期性または非同期性に3~20秒間隔で出現する周期性同期性放電(periodic synchronous discharge:PSD)をほとんどの症例で認める。
JabbourⅡ期以降に,頭頂〜後頭葉,前頭葉,基底核,視床,皮質などに病変が出現する。病期の進行とともに脳萎縮が進行する。
臨床症状よりSSPEを疑うことが重要である。典型的な症状と髄液中の麻疹抗体価の上昇が確認されれば, SSPEはほぼ確実である。これに,脳波(PSD),髄液検査(IgGインデックスの上昇),脳生検(全脳炎の所見),分子生物学的診断(変異麻疹ウイルスゲノム同定)のいずれかが加われば確実である。
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