我々は戦っていた、来る日も来る日も運ばれてくるCOVID-19の患者さんの対応を続けていた。2020年の話である。ある日、私が休日勤務の際に遠方から転院依頼があった。デルタ株波の真っただ中だった。そう、当院循環器内科へ依頼があったのは「COVID-19の患者、重症肺炎、心筋炎合併疑い」の60歳代の男性だ。
持病に2型糖尿病がありコントロールはあまり良くない。CK値は8000U/Lを超え肺炎合併のため酸素飽和度が下がっている。対照的にアイソレーターに入り、酸素を経鼻から投与されていた患者さんは思ったよりも表情に重症感が無かった。お話を聞いても本人は「あ、入院するんですか。仕方ないですね」と。
適切な感染経路別対策をしながら緊急心臓カテーテル検査を行い、冠動脈に閉塞がないことを確認し戻ってきた私たちを待っていたのは「感じない幸せ」患者さんであった。そう、Happy Hypoxiaである。酸素化はみるみる悪化し、肺炎も極期に差し掛かろうとするタイミングで患者さんは苦しみを感じないのである。ベッドサイドに感染のプレコーションをした医師、看護師が説得に当たるも「体はどこも悪くない。コロナもきっと感染していないんだ」と言い張り人工呼吸器の必要性を説いても同意しなかった。私の眠れぬ日々は続き、病院で待機する時間も増えた。
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