先日、ある先生から死体検案書の書き方についてご質問を頂きました。高齢者が転倒して頭部を打撲して病院へ搬送されましたが、硬膜下血腫で亡くなりました。この患者さんは、心房細動に罹患しており、抗凝固薬を内服していました。直接死因は硬膜下血腫です。しかし、抗凝固薬を内服していたので出血しやすい状態でした。死因を記載する欄に、「抗凝固薬内服」と書けるかということです。
死因を記載する欄には、原則として傷病名を記入することになっています。したがって、この事例では、Ⅱ欄の死因に関する傷病経過に影響を及ぼした傷病名として心房細動を記入するのが適切です。
近年は、血栓性疾患の予防目的で抗凝固薬や抗血小板薬が処方されている患者さんが増えてきています。わが国では80歳以上の10人に1人に心房細動があると言われています。したがって、高齢者でこれらの薬剤を使用している割合は特に高いです。
日本頭部外傷データバンクの解析によると、2015~17年に登録された65歳以上の頭部外傷患者のうち、抗凝固薬を内服していた人が9%、抗血小板薬を内服していた人が17%、いずれも内服していた人は5%で、全体の約30%が抗血栓薬を内服していました。
頭部外傷で入院した患者さんを対象に、抗凝固薬等を使用している患者さんと、使用していない患者さんとの間で比較が行われました。すると、抗凝固薬等を使用している患者さんでは、比較的軽い外傷でも来院後に状態が悪化する例や手術を必要とする例が多かったとのことです。そして、抗凝固薬等を服用していることだけで、状態が悪化する危険性が約10倍に、手術が必要となる確率が約12倍になったそうです。
また、頭部外傷患者さんを対象にしたほかの研究でも、抗凝固薬等を使用していない人に比べて、抗凝固薬または抗血小板薬を使用している人では頭蓋内出血の発生頻度が上昇し、さらに抗凝固薬と抗血小板薬の両方を使用している人では、さらに頻度が高くなったそうです。一方で、外傷により急性硬膜下血腫を発症した患者さんを対象にした調査では、軽症例と重症例で抗凝固薬や抗血小板薬を使用している人の割合に有意な差はありませんでした。しかし、抗凝固薬や抗血小板薬を使用している人では、死亡や後遺症を残す割合が有意に高かったとのことです。
米国で行われた調査ですが、交通事故による外傷で入院した約300万人の患者さんを対象に、心房細動がある人とない人で死亡率や入院期間が比較されました。その結果、心房細動がある患者さんでは、入院中の死亡率が1.5倍に上り、平均入院日数も長くなったとのことです。この理由として、抗凝固薬等を服用していることで、事故時の出血量が多くなったことが挙げられています。
冒頭で述べましたように、抗血栓薬が出血を助長することがあります。したがって、その影響を診断書などに記載する際には、処方することとなった傷病名を記載します。また、日常診療では、抗血栓薬の影響を考慮した迅速かつ適切な対応が求められます。