E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus:HEV)はヘペウイルス科,ヘペウイルス属に分類される小型球形ウイルスである。プラス鎖1本鎖のRNAを有しており,4つのgenotypeに分類される。genotype 1型,2型は主に熱帯,亜熱帯地方,genotype 3型,4型はわが国を含め世界に広く存在する。従来,E型急性肝炎は発展途上国の風土病と考えられていた。しかしながら,近年は先進国からの報告も多い。わが国においてはgenotype 3型HEVの感染報告に始まり,近年では小流行が散見されている。HEVは急性肝障害の成因として常に念頭に置いておかなくてはいけない疾患のひとつとなっている。
わが国ではブタ,イノシシ,シカからが主な感染経路である。以前は北海道での感染が多くみられたが,近年は東京などでの感染も増加している。大半は自然軽快すると考えられているが,genotype 4型を中心に重症化する症例があり,注意を要する。また,稀ではあるものの,神経障害や腎障害をはじめとした様々な肝外病変を合併することもある。
E型肝炎は近年増加傾向にあり,急性肝障害を疑った場合は鑑別に挙げる必要がある。E型急性肝炎でも他のウイルス性肝炎と同様に,初発症状として感冒症状で発症することが多い。また,HEV感染の感染経路と考えられる,十分に加熱されていない豚肉,鹿肉,猪肉を食していなかったかどうかが診断につながることもあり,問診は重要である。
わが国では,2011年より抗HEV IgA抗体が保険収載となり実臨床で使用可能となった。これ以降,抗HEV IgA抗体による診断が増加している。Takahashiらは抗HEV IgA抗体検査の成績について,68名のE型肝炎症例と2781例の非感染者で検討した結果,感度,特異度ともに100%であったと報告している1)。しかしながら,HEV IgA抗体が陽性となるまでの期間が存在するため,一度の測定の結果で陰性でも,後に陽性となる場合があるため,注意が必要である。HEV RNAはPCR法により検出可能でウイルス血症を証明できるが,わが国での保険適用はなく,研究機関への依頼が必要である。
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