2022年7月8日(金)昼、TVをonすると「安倍・元総理大臣、銃撃される」のテロップが躍り、現場の映像を流していた。11:31AM、安倍氏は近鉄・大和西大寺駅近くの柵に囲われた安全地帯(zebra zone)で選挙応援演説中に銃撃され、現場よりヘリで大学病院へ搬送されていた。銃規制の厳しい日本、しかも要人警護のSPも配置されていた中で白昼堂々、5~10mの至近距離での銃撃がなぜ可能であったのか? 以前の自身の経験も合わさって複雑な気分になった。同日、夕、担当医の記者会見がライブ中継され、開胸などの救命処置、多量の輸血も甲斐なく、心肺停止からの生還を果たせなかったと報告していた。記者の質問に「頸部に2つの小さな傷があり、頸部の大血管、心室の損傷があった」と返答されたが、2箇所の弾丸の入口部(射入口)? が推測されて不思議の思いを抱いた。
30年程前にアフガニスタン戦傷者の治療に携わった小経験がある1)。その銃創の多くは小銃(ライフル、ロシア製カラシニコフ、米国製AK47など)により、体内跳弾の程度にもよるが、破壊力が凄まじく、射入部位によっては1発で完璧に致命的であった(図)。
逮捕時の被疑者の足元に武器が映っていた。銃身は2連の鉄パイプ、1連に6個の球状飛翔物を装填して発射する自家製銃であることを後の報道で知った。散弾であれば、頸部に2つの射入口があっても不思議ではない。
日を置いて司法解剖の所見が明らかにされ、左上腕から鎖骨下部の血管損傷が死因と推測され、頸部の銃創は1箇所のみと発表されている。狙撃時のビデオを見ると安倍氏は右手にマイクを持ち、左手の拳を演説に合わせて振り上げるなどしていた。最初の銃弾は逸れたが、その轟音に何事かと驚き、左側から振り返った刹那、2発目に被弾されている。その間、2秒であった。悲劇的な、取り返しのつかない2秒である。
繰り返しになるが、銃創は一見、軽傷に見える表面の創傷に反して、血管、内臓器に次元を異にする重度の損傷を生じている可能性がある。今回の事件の知見、教訓が医学部、司法要員への教育に生かされるであろうことを期待している。
【文献】
1) 提箸延幸:平和な国の医者だけど─アフガン戦傷者病院診療日誌. 講談社出版サービスセンター, 1996.