厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の合同会議は7月20日、塩野義製薬が開発中の新型コロナウイルス感染症の経口治療薬について審議し、緊急承認を見送った。同治療薬は緊急承認制度を用いて承認可否を判断する最初の製品だった。この日の審議をどう見るか。日本や海外の新薬の承認制度に詳しい小野俊介氏に聞いた。
本来は、新型コロナウイルス感染症まん延による緊急性、社会不安などを考え、医療現場の先生たちの意見や社会のニーズをふまえた上で、承認するかどうかを審議しなければいけない場でしたが、そういった議論は一切行われませんでした。本来議論すべき点が話し合われず、薬効評価の原則論に終始してしまったことは残念です。
国民の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがある疾病のまん延、放射能汚染、バイオテロなどの緊急時に、治験の途中で有効性が推定段階であっても医薬品などの承認申請ができる制度です。米国では「緊急使用許可(EUA)」、EUでは「条件付き販売承認制度」が10年以上前から運用され、新型コロナのワクチンや治療薬の緊急使用、緊急承認に使われました。
日本も米国の制度を参考に、今年5月に緊急承認制度を創設しました。通常の承認では、臨床試験データに基づいた有効性と安全性の確認が必要ですが、緊急承認制度を用いれば、治験中であっても、安全性が確認された上で有効性が推定されれば、医薬品などの承認が可能になっています。
今回の審議では、緊急承認制度を運用する上で、厚生労働省が議論の仕方、論点、現在は緊急時であり、どういう審議を社会や政府が期待しているか、というところを最初に確認する必要があったと思います。そういった議論の方向性が示されなかったためなのか、審議会では有効性の解釈に通常の承認審査と同じレベルの厳しさを求め、緊急承認制度を創設した意義が感じられませんでした。
今回、審議メンバーは通常の審議会と同じでしたが、緊急時ですから、通常の審議会とは異なるメンバーを入れ、社会のニーズなども含めて、承認するかどうか審議すべきではないでしょうか。