医療が発達し、病気に罹ることがほぼなくなった社会。互いを思いやる「ハーモニー(調和)」がはびこる中で、ある3人の少女は餓死することを選ぶが……(伊藤計劃著、早川書房、〈新版〉2014年刊)
伊藤さんに会ったのは、2007年頃のことだったと思う。私はその頃、SF小説の新刊書評を毎月書く仕事をしていて、彼のデビュー作もまっさきに読み、まるで翻訳小説のような、いい意味で日本人離れした作風には驚かされた。
その頃の伊藤さんは、SF関係のいろいろな集まりに顔を出していて、あるイベントで私が企画した映画の上映会でも、楽しそうに画面を見ていた姿を今でもよく覚えている。直接言葉を交わしたのは数えるほどだったけれど、作品のハードなイメージとは正反対の、とてもおだやかな人だった。
彼ががんという病を患っていたことは知っていたけれど、その闘病生活がつらく苦しいものだったことを知ったのは、のちに彼が書いていたブログを書籍化した本を読んでからのことだ。
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