「先生、太かろう。島の男の勲章じゃ」。アカジョウ、屋久島を代表する巨大魚。魚拓の周りには、仲間とともに大きな魚を釣り上げ、満面の笑みが溢れる写真の数々。自然とともに島に生きる太公望の人生を、これほどまで雄弁に物語るカルテはないであろう。
今年4月、屋久島に移住し、診療所を承継して初めての訪問診療。デイサービスに通いながら、家ではベッドでふさぎ込んでいることが多かったという。しかし釣り好きだと話したとたん、身体を起こして大きな声で語りかけてきた。「先生、待っちょったよ」。
27年前、青年海外協力隊員としてアフリカのマラウイ共和国の、国立ゾンバ中央病院に赴任した。400床の病院に1000人以上が入院しており、その8割はHIV、エイズの末期患者。治療薬もなく、人口200万人の医療圏に外科医は自分ひとり。病院に住み込みながら休日も休暇もなく、緊急手術と看取りの毎日。2年半に行った手術は3000例を超え、心も身体も燃え尽きようとした中で見えてきた希望。それは、自然とともにあるマラウイの人々の暮らしの躍動感だった。以来、アフリカの壮大な世界観に惹かれ、国際協力機構(JICA)のシニアアドバイザーとして、アフリカを中心に30カ国を超える国々でグローバルヘルスの仕事に携わってきた。
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