A:ニューロモデュレーションとは,デバイスにより神経機能を調節する治療法である。特に非侵襲的ニューロモデュレーションは,手術が不要であり自分自身で実施可能である。また,安全性が高く有効性が高いため,今後の頭痛治療の重要な選択肢になりうる。
ニューロモデュレーションとは,デバイスを用いて末梢神経や頭蓋内神経領域を電気や磁気で刺激することにより神経機能を調節する治療法である。特に非侵襲的ニューロモデュレーションは,手術の必要がなく自身で実施可能であるなどのメリットがある。頭痛治療におけるエビデンスも蓄積されつつあり,「頭痛の診療ガイドライン2021」にはニューロモデュレーションが片頭痛治療の重要な選択肢になりうると記載されているが,現在わが国では保険適用はない1)。
頭痛治療に用いられる代表的デバイスにはgammaCore SapphireTM,およびCEFALY®,sTMS miniTMがあるが,これらのデバイスはいずれも片頭痛の急性期治療と予防療法について欧州連合(EU)でCEマークを取得し,米国で米国食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)の承認を受けている。
gammaCore SapphireTM(electroCore社,米国)は,頸部迷走神経を電気刺激する非侵襲的迷走神経刺激(non-invasive vagal nerve stimulation;nVNS)装置である(図1A)。片頭痛急性期治療効果を検討したPRESTO研究では,治療120分後の頭痛改善率がgammaCoreTM群でシャム群より高率であった(40.8% vs. 27.6%,P=0.030)2)。また,予防効果について検討したEVENT研究では二重盲検期間後の頭痛日数変化に差はなかったが,オープン期間を含めた8カ月間の治療を行った15人では,頭痛が1カ月当たり平均7.9日減少したと報告されている3)。
作用機序として,迷走神経刺激による三叉神経脊髄路核での細胞外グルタミンレベル抑制が示唆されている。有害事象に治療部位疼痛,皮膚発赤,めまい,頭痛などがあるが,重篤なものは報告されていない。また,gammaCore SapphireTMは,反復性群発頭痛における急性期治療効果,および慢性群発頭痛における発作回数減少効果も報告されている。
CEFALY®(CEFALY Technology社,ベルギー)は,眼窩上神経を介して三叉神経を電気刺激する経皮的三叉神経刺激(external trigeminal nerve stimulation;eTNS)装置である(図1B)。片頭痛の急性期治療効果を検討したACME研究では,治療1時間後の頭痛強度がCEFALY®群ではシャム群に比して低下した(-59% vs. -30%,P<0.0001)4)。また,予防効果を検討したPREMICE研究では,治療3カ月後に1カ月当たりの片頭痛日数が導入期より減少した(6.94日 vs. 4.88日,P=0.023)5)。富永病院頭痛センターを含む国内4施設における片頭痛患者100人に対する検討では,12週間後に4週間当たりの片頭痛日数がベースラインから減少した(8.16日 vs. 6.84日,P=0.0036)6)。
作用機序として,高周波刺激による鎮静効果や,ペインマトリクス領域の代謝低下改善が報告されている。有害事象に刺激部疼痛,眠気,頭痛,皮膚アレルギーなどがあるが,重篤なものは認めていない。
sTMS miniTM(eNeura社,米国)は,後頭部から磁気刺激を行う単発経頭蓋磁気刺激(single-pulse transcranial magnetic stimulation;sTMS)装置である(図1C)。前兆のある片頭痛における急性期治療効果の検討では,sTMS群ではシャム群に比して急性期治療2時間後の頭痛消失率が高率であった(39% vs. 22%,P=0.0179)7)。また,予防効果を検討したESPOUSE研究では,3カ月間の治療後に頭痛日数が2.75日低下した8)。
作用機序として,皮質拡延性抑制(cortical spreading depression;CSD)現象の抑制や三次視床皮質ニューロンの発火抑制が推測されている。有害事象には,耳鳴り,めまい,頭痛などがあるが重篤なものは認めていない。
本項では頭痛治療に用いる3つの代表的デバイスであるgammaCore SapphireTM,CEFALY®,およびsTMS miniTMについて述べた。非侵襲的ニューロモデュレーション治療の位置づけは明確ではないが,重篤な有害事象の報告はなく,比較的安全性および有効性が高いため,頭痛治療においてニューロモデュレーションは有効であると考えられる。
ニューロモデュレーションは薬物治療との併用や単独使用などが可能であり,特に薬物治療無効例や有害事象などで治療継続が困難な症例では,重要な治療オプションになると考えられ,今後の早期上市が期待される。
【文献】
1)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会, 編:頭痛の診療ガイドライン2021. 日本神経学会, 他監. 医学書院, 2021.
2)Tassorelli C, et al:Neurology. 2018;91(4):e364-73.
3)Silberstein SD, et al:Neurology. 2016;87(5):529-38.
4)Chou DE, et al:Cephalalgia. 2019;39(1):3-14.
5)Schoenen J, et al:Neurology. 2013;80(8):697-704.
6)Danno D, et al:Sci Rep. 2019;9(1):9900.
7)Lipton RB, et al:Lancet Neurol. 2010;9(4):373-80.
8)Starling AJ, et al:Cephalalgia. 2018;38(6):1038-48.
本稿は『jmedmook82 「頭痛の診療ガイドライン2021」準拠 ジェネラリストのための頭痛診療マスター』の一部を抜粋し,掲載しています。
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