コロナ前のことです。観光都市の救急外来には、海外からの旅行者もよく受診されます。
ヨーロッパから来た70代女性のAさんもそんな1人でした。彼女の主訴は呼吸困難、初診時は頻呼吸、室内気でSpO2 80%台、胸部CTでは元々の気腫肺に細菌性肺炎が合併していました。NPPVは装着したものの気管挿管は回避でき、10日ほどで退院する目処がつきました。しかし、問題になったのはここからです。「彼女は帰りの飛行機に乗れるのか?」
この疑問が頭に浮かんできました。
航空機内は、地上とは環境が異なります。特に国際線は高度3万~4万5000フィート(9100~1万3700メートル)を飛行しており、気圧条件は標高2440メートル(富士山5合目の高さに相当)の高地と同じで、航空機内は0.8気圧で酸素分圧も低く、健常者でもSpO2が低下します。さらに気胸の悪化、機内の乾燥、騒音など航空機内は呼吸器疾患のある患者さんにとってはやや過酷な環境です1)。
日本に来る時のフライトでは問題がなかったAさんですが、肺炎治療後も時々息切れがあり、入院前より呼吸機能は落ちていそうでした。短時間ならともかく、ヨーロッパまでの約20時間のフライトに耐えられるかどうかは未知数でした。
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