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Graham教授とのアラスカでの鮭釣り[エッセイ]

No.5143 (2022年11月19日発行) P.68

浅香正博 (北海道医療大学学長)

登録日: 2022-11-20

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ピロリ菌研究を私に勧めてくれ、以後ずっと一緒に研究を続けてきたヒューストンのGraham教授は魚釣りが趣味であり、時折、世界各地で釣り上げたとんでもなく大きな魚の写真を見せてくれていた。

2005年の夏、「息子たちとアラスカに鮭釣りに行くがおまえも一緒に行かないか」と突然の誘いがあった。むろん二つ返事で承諾した。しかし、その後心配が持ち上がった。私も釣りは好きで、以前、フィッシングボートを所有していたことがある。しかし、待望のボートが手に入り、船釣りを始めたとき、とんでもないことを思い出した。自分自身が船酔い体質だったのである。ボートが動いているときは何でもないが、止まって釣りをすると少々のうねりでもすぐ調子が悪くなる。一度などは、港へ入っても吐き気とめまいが止まらず、家内に車を運転してもらい自宅に戻ってそのまま朝まで寝てようやく回復したという恥ずべき過去がある。

ともあれ、シアトルでアラスカ航空に乗り換え、シトカ空港に無事着いた。シトカは19世紀にロシア人によって開発された町であり、美しい自然がいっぱい残っていた。小さなホテルのため釣り客で満杯になっており、4日間、Graham教授と一緒にツインベッドの狭い部屋で暮らすことになった。彼が朝早いことは承知していたが、3時半には起床しシャワーを浴びるため、なかなか熟睡ができなかった。4時過ぎに息子たちの部屋に電話をかけて起こし、4時半には釣りのため出発した。

ホテル近くの桟橋に立派なクルーザーが待っており、釣り竿、リール、餌までそろっていた。比較的波の穏やかなシトカ湾を出て北太平洋に出るとうねりがしだいに高まってきた。強い吐き気が生じ、数回見つからないように嘔吐した。日本から持って行った吐き気止めはまったく無効であった。

Graham教授が気づいてくれ、「吐き気止めは飲んだのか」と言う。Yesと答えると、「ここでは、軟弱な吐き気止めは効かないのでこれを飲め」と言われて飲んだのが、オンダンセトロンであった。言わずとしれた5-HT3受容体拮抗薬であり、中枢に作用して抗癌剤の吐き気を抑制する作用のある究極の吐き気止めであった。

我々日本人では考えもしないオンダンセトロンの適応外使用であったが、効果は抜群であり、以後ばったり吐き気はなくなり、3日間、鮭釣りを楽しむことができ一生分の鮭を釣り上げることができた。

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