No.5147 (2022年12月17日発行) P.58
天野慎介 (一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長)
登録日: 2022-12-06
最終更新日: 2022-12-06
国のがん対策は2006年に成立した「がん対策基本法」に基づき、「がん患者及びその家族又は遺族を代表する者、がん医療に従事する者並びに学識経験のある者」から構成される厚生労働省がん対策推進協議会において「がん対策推進基本計画」が策定される。現在、第4期となる基本計画が協議会において策定中であり、12月中に協議会で取りまとめられ、省庁間の調整やパブリックコメントなどを経て、来年3月には閣議決定の見込みである。
2007年に策定された第1期の基本計画では、全体目標は「75歳未満の年齢調整死亡率の20%減少」「全てのがん患者及びその家族の苦痛の軽減並びに療養生活の質の向上」が掲げられ、がん医療の均てん化を目的としてがん診療連携拠点病院が整備された。2012年に策定された第2期の基本計画では、筆者も協議会の会長代理として策定に関わり、新たに全体目標で「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が加わり、がん患者の就労支援や小児がん拠点病院の整備なども新たに盛り込まれた。
2017年に策定された第3期の基本計画では、全体目標は「科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実」「患者本位のがん医療の実現」「尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築」とされた。新たに希少がんと難治性がんの対策、ライフステージに応じたがん対策(AYA世代のがん、高齢者のがん)が盛り込まれ、がんゲノム医療中核拠点病院等が整備された。この間、2011年には東日本大震災が発生し、2013年には「がん登録等の推進に関する法律」が成立、2016年には「がん対策基本法」が改正されている。
2019年12月に始まった新型コロナウイルス感染症の流行は、がん対策にも大きな影響を与えた。これまで第2期・第3期の基本計画の策定では、協議会で1年程度の検討期間を要してきたが、厚生労働省がコロナ対策にエフォートを割かざるをえなかったため、今回の基本計画はわずか4カ月の検討期間となっている。協議会は月2回開催され、委員も事務局も精力的に検討してはいるが、時間不足の感は否めない。
現時点では、新たな論点として「感染症のまん延や災害等を見据えた対策」が挙げられ、「全ゲノム解析等の新たな技術を含む更なるがん研究の推進」「デジタル化の推進」「患者・市民参画(PPI)の推進」などの項目も並ぶ。感染症のまん延や大規模災害が発生する中でも、日々新たながん患者が生じ、がん医療の現場も休むことがない。現場でがんと向き合う患者や医療者の視点に立ったがん対策推進基本計画の策定が求められる。
天野慎介(一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長)[感染症のまん延や災害等を見据えた対策]