かつては,冬期の乳幼児における主要な嘔吐下痢症の原因ウイルスであったが,2020年10月よりロタウイルスワクチンが定期接種化され,外来・入院とも患者数が減少傾向である。しかし,地域的な流行が国内でもあること,ノロウイルスと比較して輸液を要するような中等度以上の脱水や脳症などの合併症も多く,油断できない感染症である。
わが国では乳幼児嘔吐下痢症の原因は,ウイルス性がほとんどであり,季節,周囲の疫学,曝露情報と症状(下痢のタイプなど)から臨床診断する。
生後3カ月以降の初感染は重症となりやすい。初感染では嘔吐で始まり,24~48時間後に水様下痢が出現する。下痢は1日8~20回に及ぶこともあり,数日~1週間程度続くことがある。また,約3割で高熱を伴う。
最も重要なことは,原因診断よりも重症度の判断である。重症度に一番影響するのが,脱水の有無と程度である。次に重要なことは,緊急性の高い疾患の鑑別である。特に嘔吐,腹痛は乳幼児では鑑別疾患が多い。ことに腹痛を伴っている場合,そして腹痛が嘔吐より優先している場合は,絞扼性イレウス(腸重積や腸回転異常症など)を念頭に置き,対応可能な医療施設に紹介する。
年齢と病態に応じた鑑別疾患を念頭に置きつつ,生理学的評価を行い,脱水と判断したならば,早期に経口補水療法(oral rehydration therapy:ORT)を開始する。早期の介入が重要である理由は,乳幼児は,体重当たりの水分必要量が多いことと,水分や食事摂取が自立していないため,供給を他者(特に保護者)に依存しているためである。
脱水への対応,すなわちORTや経静脈的輸液(intravenous therapy:IVT)を行う。輸液療法の適応となることの多い体重の5%以上の脱水(体重減少)を見逃さない。
経口補水液(oral rehydration solution:ORS)は,急性下痢症に対する世界標準治療であり,血管確保が不要で児への負担も少ないという利点はきわめて重要である。脱水のない状況における脱水予防と,軽度~中等度の脱水に対する治療として推奨される。
嘔吐に対する制吐薬,下痢に対する止痢薬はエビデンスに乏しく推奨されていない。ロペラミドは乳児でイレウスの発症が報告され,6カ月未満は禁忌,2歳未満は原則禁忌である。
原因がウイルス性の場合,抗菌薬は不要である。40℃以上の⾼熱,⾎便,強い腹痛の存在は原因として細菌性腸炎を疑うポイントではあるが,基礎疾患のない小児においては,細菌性腸炎の診断を急ぐ必要性はない。細菌性腸炎の診断や抗菌薬治療を急ぐよりも,より緊急性の高い上記の鑑別が優先する。
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